6 源氏物語
源氏物語は原文はもちろん現代語訳でも難しい。俗に「須磨源氏」と言われるように「須磨」の巻きまで済まないのか、そのあたりまででやめる人が大部分だという意味だろう。
7 春の雪
三島由紀夫でもし1冊を選ぶとすると『春の雪』である。もちろん4巻本の1冊だから、これ1冊で話は終わるわけではないが・・・、
三島さんのライフワークということで、全体のタイトルは『豊饒の海』という。月の地図上の名前である。月だからもちろん海などない。窪地のようなところを海と呼んだ。多くのミネラルでもあるかも知れないという期待を込めたのかも知れないが、実際には不毛の地であろう。そういう意味をかけたタイトルである。これはまた生涯の全作品を意味していると思っても良い。実に見事なきらびやかな作品群は豊饒というにふさわしい。しかし、覚めた目で見ると所詮文字で書いたあだばなであるという認識を忘れてはいないぞ、という自己批評に他ならない。
文芸雑誌「新潮」に連載されていて、1巻「春の雪」、2巻「奔馬」が全巻の途中ながら新潮社から単行本として刊行された。昭和44年の1月に発売されている。高校2年から3年である。新聞で書評を見てすぐに注文した。続いて「奔馬」も同様である。『潮騒』を読んだのが高校1年か。つまらないと思った。1年ほどして新著日本文学という1作家1巻という日本文学全集が出た。図書館にあった。すごいなと思ってファンになった。そのあとの『春の雪』であったから、たちまち陶酔・・・。高校2年から3年。
そして、翌年4月から私は広島の予備校の寮暮らし。寮の隣に銭湯があった。3時ごろ開く。暇な時は開店と同時に行く。11月25日銭湯のテレビで三島事件のことを知った。憧れの作家が自殺したからと言っても、こちらはそれに同行する義理もロマンもない。ただ、こちらの世界を生きていくしかないだけであった。雑誌や週刊誌の特集があれば買っておくように弟に指示しただけである。
8 カラマーゾフの兄弟
この偉大な小説は何度読んでもわからない。いやたったの2度だけなのだが、もう何度も読んているような気持ちがする。そしてその都度それは私から遠ざかったいく。活字と生きている以上、それでもつきあっていかないといけないような圧迫感で迫ってくる。世界文学全集や文庫本にあるドストエフスキーのの作品はあらかた読んだ。ほどよく面白く、ほどよく感動し、ほどよく打ちのめされ、そろそろ卒業したと思ったら、にょきにょきと頭を持ち上げてくるのだ。まるで悪夢のように。人はカラマーゾフが最高だと言うが、私には悪霊や罪と罰の方が悪夢のように迫ってきた。
米川正夫訳、岩波文庫、全集。
9 『氷点』『続・氷点』
中学生の頃話題になった。テレビで少しだけ見たのだろうか? ともかくこれは買わねばならぬと、買った。期待に違わずぐんぐんと物語の中に引き込まれていった。1箇所だけ涙がでたところがあった。それから何年かして、広島の下宿が朝日新聞をとってくれており、チラチラと見たが通しては読んでない。それからはるか何年か経って、読まずに死ぬわけにいかぬと言う気持ちになった買って読んだ。朝日の懸賞小説でトップ入賞しドラマ化されて見事に完結しているのに、こんなに豊饒な続編があったと言うことの方が驚きだった。
『続・氷点』の圧巻は不義の子・陽子の出生を認める実母の夫・三井の論理と倫理である。
10 『ローマ人の物語』
昔、子どのころ、それはテレビの出始めの頃の話である。もちろん白黒の14インチでの話であるが、NHKの番組に空飛ぶジュータンの乗って全国の小学校を回っていくと言う番組だった、塩野七生さんの作品を読んでいると、その空飛ぶジュータンに乗って世界中の国に行っているような錯覚と酩酊感に襲われる。
塩野七生さんの著作は力作ぞろいであるが、特に『ローマ人の物語』は格別である。これは新潮文庫になれば読もうと決めていたので、そうした。息子も読んでいると言うので2巻以降を送った。卒業時に本が帰ってくるかと思ったら1枚のCDになって帰ってきた。そう言うことが流行っている時だった。『ローマなき地中海世界」『十字軍』『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』などが続々と出版されたので、『ローマ人の物語』を再読の時間はなかったが・・、