2020年12月23日水曜日

ἔννεπε Μοῦσα

時期不明

 実朝哀歌

青葉繁れる 八幡宮

月もおぼろの 大銀杏

語るいにしえ 段葛

浮かばぬ船も 朽ち果てて

潮風の舞う 弓が浜

ああ 実朝の 夢はるか

 

   わが越え来れば 伊豆の海

   沖の小島に 波の寄る見ゆ

 

胸に秘めたる 右大臣

ゆれる松明(たいまつ) 雪あかり

おりる石段 運命の

闇に飛び出す 黒頭巾

鮮血の舞う 雪の上

ああ 実朝の 夢はるか

 

   磯もとどろに よする波

   われてくだけて 裂けて散るかも

 

雪に写りし 松明に

見守る公卿 影あわし

ああ 鎌倉の 土に散る


20061001

月変わり雨の日曜しとしとと草を濡らして秋は深まり
薩摩芋赤き薄皮はがさんとぽろぽろ落ちる秋の味覚や
桜葉の枯れて小枝にかかりけり秋のおとづれ庭の隅にも
ミニ薔薇の赤き花弁をぬらす雨音もなく降る秋の日の暮れ
あもあますあまとあまむすあまちすと覚えし日々は遠き日の夢

   秋雨
風来巻雨日黄昏
木葉連村鳥雀喧
秋水茅蘆人不寝
開芳相對菊花園

20061002
足の指藁をはさんで縄をなう遠きむかしの雨の日の午後
故郷(ふるさと)の夕日を浴びた柿の実にここにも秋の訪れを知る
秋の夜の澄み渡れれば月明かり庭に回りしこの夕べかも
もののふの八十路を前に曾孫(ひいまご)の生まれるを聞く年深からし
雨降って寒さ追い越す衣替え
秋晴れや朝夕のため衣替え
稲刈れば雀集うて日も忘れ
秋の日や山路を急ぐ老夫婦
遅起きの雨にはじまる神無月

   秋夜
幽庭一夕草虫聲
半夜天空月色明
灯火少年窓下座
青編閑拾厭虚名

20061003
飛行機に負けじと湖水鴨渡る   
秋深み鳴く虫の音も澄み渡り雲いの月の蒼き夜かな
故郷(ふるさと)に変わらざりけり夕暮れの海山川に秋風の吹く
おぎの葉に秋吹く風はもの言わでただ眺むるは夜半の月かな
稲穂干す田の畦道に雀来てせわしせわしと日の暮れるまで
やまざとの日暮れの近き木の葉道秋風さけて鳥らかくるる
 
自転車の家路を急ぐ長き影
灯もつけでどこかせわしき秋の暮れ
秋の夜やパソコンの音ころころと
携帯の着メロ響く秋の月
少年の帰る夜道の秋の風
 
 
 夜想
風露西流夜漸深
星光隔在憶人心
白雲万里少年夢
月影不知千古侵 


2006年1101

平積みの本は押し寄せ蟹のごと

 

20061102

 

公園の桜染まりて赤色に夕日を受けて秋風に舞う

午後の日は斜めにさして日影避けメダカ静に泳ぎ餌(え)を喰う

雲続く東の山はどんよりと煤煙覆う霞のごとく

黒檀で彫刻した鬼の面寅彦が言う菱の実成れり

藁塚があったあたりに雀来て

岩手より甥の送りし林檎噛む

風吹いて夜のサフラン海辺街


 追懐

往事追懐斜照中

氷心老痩立秋風

幽庭寂歴花開落

万里鵬程落日紅

 

20061103

 

渦巻きの登る山道彼方には雲光りたる蒼き峰々

弥高山遠き山々椀久の中にすっぽり囲まれて

蒼き空澄みわたれども木の葉道午後の日かすか夕暮れのごと

木の葉散る千峯谷に続く道

葛の根を猪食らい土起こす

棕櫚の木に蔦は絡まり枯れ尾花

萩は枯れ櫨赤ばみて日は翳り


 弥高山

奇峰深浅問蒼穹

雲影仰看西復東

晩艶清閑山色秀

重過秋径古村中

 

20061104



千光寺菊人形は遠く去りいにしえのごと猿は遊べり

カタコトと子供電車の静けさよ菊人形で賑わいし山

三重の岩の下から見おろせば小さき海は秋の日映す

奇岩這う菊盆栽の午後の日や

フランスの秋景色観る千光寺

寺楼より眺むる古寺は秋日和

 

 千光寺

禅扉古塔寺楼東

映水魚家秋気中

暫対菊花天色淡

仙郷十里晩鐘通

 

20061105

 

秋の虫去りし公園満月照らし静に歩む

秋の日は落ちて黄昏迫り来る夕凪亭の日曜の午後

ひたひたと暮れゆく秋の山ぎわに白き満月静に登る

 

オナモミのガードレールを越えて生え

水源地鴉と雀鳩も来て

葉は落ちて柿の実だけに夕日照る

 

  秋景

万壑千峰立晩風

連天一碧白雲通

清遊快意夕陽寺

遠近秋山樹樹紅 

 

20061106日


朝夕の次第次第に寒さ増しいつのまにやら冬のおもいぞ

立冬の日を前にして曇り空低きに流れ日は弱まれり

晩秋の朝の冷気や薄曇り

野良猫は落ち葉のしとねかきまぜて

山茶花の蕾緑にふくらみて

見上げれば夜の公園カシオペア

 

  偶成

山寺枯林微雨中

斜陽淡照又多風

送秋草屋蕭条日

落葉庭陰銀杏沖

 

20061107 

朝焼けに柿の実一つ朱に映えてさやさやと揺れ木枯らしの吹く

立冬に震える今日の寒さかな

 

   立冬朝

行人前日仰蒼穹

一樹枯枝庭半弓

巳看暁来残月白

四山秋去半窓風 

 

20061109 

開店の日を違えたり郊外の集合店舗夜の賑わい

太陽の前を横切る水星は惑星なれど住む望み無き

ひっそりと八つ手の花は白く咲き

立冬の嵐は去りて日は照りぬ

 

  寒林

午日寒林枯木枝

逍遙一路日光移

村園小至初冬侯

柿影鐘声日暮時

 

20061110 

小雨降る初冬の夜は暖かで晩秋といえどおかしくはなし

竜巻の起こりし冬は常に無く遠雷の音近づきて庭の葉響く

この頃の雷などは珍しく天かける音いぶかりて見る

 

寒凪の日のあとこそ用心が

枯れ蔓を引く猫の子に日が当たる

枯れ蔓は根元幾重に絡まれり

 

  歳月

一棹扁舟碧水潯

江村曲裏夜森々

閑亭静座清風下

志業無効歳月深

 

20061113

コンビニ栄えて耕地荒れる 嗚呼

 

公園を肥満の烏散歩する

蛇の皮崖にかかった通学路

櫨の木は故郷の山に紅く燃え

 

田畑(でんばた)はいつの間にやら草覆いやがて原野に変貌す

育ち見し山畑は蔓草覆い桐の木生えてもとの山に戻りけり

夏過ぎて秋に生まれし野良子猫冬の雷はじめてぞ聞く

 

 晩秋

南窓負暖倚柴門

門巷羊童風日温

百草成堆秋已老

暮寒随処夕陽村

 

20061114暖冬と人は言えども冬空は日々に寒さが増していくよう

開店の人溢れたり冬木立

 

    初冬

農夫不語午光移

日暮田園草木衰

山圃蕭々人影悄

橙黄枯葉入冬時

 

20061115

 

朝焼けや老婆の庭に柿熟れる

朝焼けや老婆は柿をもぎもせず

南天の実紅く染まる朝焼けや

冬薔薇庭は枯れしも紅ひとつ

 

 寒夜読書

一灯凭几夜沈沈

尚友逍遙万古心

四壁窓前書満架

恣情閉戸惜光陰


 

20061116

何年も家路をいそぐ道の辺にモールの灯り煌々と照る

寂しくて暗い帰宅路大型のモールができて別の世界に

秋ならば雀変じて蛤が雉子も変じておお蛤に

人虫の去りし公園新月を待つ

 

   偶成

暗香月裡不眠人

想昔寄書一度春

哀憐玉笛空入夢

迎来妙舞喜心伸

 

20061117 

  偶感

寒光凛凛月皚皚

苦楽千年去復来

往事遺編孤客夢

前途無跡雁声哀


20061118

 

初時雨家無き猫は濡れにけり

山茶花の紅き花にも冬の雨

 

  雨夜

寒窓負暖獨看書

尚友巻舒與世疎

一雨冷風三径草

孤灯陋屋愛閑居

 

20061119


桜葉は冬の公園降る雨に 紅く染まりてはらはらと落つ

山漆山道近く染まりいで手折ってみよと招くが如く

黄黄緑緑の葉叢冬木立ポプラの変化ここに始まる

 

 紅葉 

錦繍雨餘流水音

孤村山寺暮鐘沈

浮生幽賞楓林晩

奪目仙郷満地深

 

20061121

 

  偶成

一去知君愛眼晴

爾来落月夢魂驚

浮雲俯仰寒灯下

百世行人故旧情

 

20061123 

 

冬の日は静かに過ぎて陽も弱し

野良猫の入りし庭に冬の雨

さやさやと落ち葉も動く冬の夜

銀杏散る姿優美に冬の日はやや暖かき午後の雨まで

買い物に車集いて祭日は忙(せわ)しく過ぎて冬の日のゆく

白と黒交互に昇る昼火事の煙の色は非情なりけり

 

  静夜

展巻遺編把燭看

詩思撥尽忘悲歓

冷風胸裏千秋意

窓下残紅夜読寒

 

20061124。

昼の日を浴びる子猫や家はなし

小春日に目を細めたり家なき猫(こ)

木枯らしに尻尾(しっぽ)丸めてマフラーに

 

古書店の目当ての本は無くなりてライバル増えて喜ぶべしや

持てるもの書いたき本を確かめて行けども既に売れてしまいし

三日月が巡り来たらば一段と冬の寒さがさらに深まり

 

  無題

落葉昏鐘月半規

初冬短日獨敲詩

寒鴉孤影疎林外

小至荒村日暮時

 


 

20061126

 

 太閤の築きし城を眺めつつ遠き日想う冬の日の夜

 錦繍の野山を映す寒水に鴎舞い来て漣(さざなみ)たてり

 紅楓金の鳳凰今飛ばむ

 

20061127


  閒居

臨水青苔別有天

閒窓養拙日如年

髙歌心曲後凋色

閑坐南軒一鏡円 

 

20061128

  偶成

歳月空餘倚夕蒼

江山秋色月如霜

雄図尚有人無識

満目暮雲夢一場

 

20061129

 

ツワブキの黄色い花のなつかしき

百合の種冬空に伸び枯れたまま 

 

 冬景

斜日枯林一鳥帰

昏鐘古径落楓飛

初冬邑舎炊烟上

江上寒波灯影微

 

 

20061130

山茶花の咲き初めてやページ閉じ 

 

偶成

岸柳一枝雲自帰

西郊村舎錦楓飛

初冬短日渓声裡

百草軽寒淡夕暉

  
 2006年12月

   偶感

誦読菲才歳月過

光陰一夢去来波

蒼天獨往斜陽冷

多望沈潜今若何

 

 初冬寒月


短日蕭条寒月窺

空庭籬落午陰濃

晩鴉柿影初冬興

落葉枯林百草萎

 


  寒夜

尚友寒窓自浩然

閑庭竹径月光穿

松陰佳客幽人有

耿々夜闌一鏡円

 


 夜寒

葉尽猿声気不平

白雲枯柳夜寒生

連山露底鳴幽鳥

一路三更残月明

 

 

  年末

歳月匇忙将暮時

陳編膝下寸心知

夢魂措大相思杳

晩節従容生有涯

 


  暮雨

高楼暮雨緑苔侵

一坐閒窓人未眠

卓落幾篇堆浄机

索居誦読夜正深

 


 

 偶感

寒窓小雨葉堆池

只有空庭日暮時

凭几三更冬夜永

辛勤案句独敲詩


   静夜

青灯窓外夜方深

寒鳥枯枝斜月臨

尚友展巻猶不倦

乾坤万里夢中尋

 

 

 夜読

紅残古樹夜窓虚

擁几潜心独巻舒

星彩陵々灯下坐

草堂幸有一床書


20201120

 秋夜詩

虫声満地一天秋

万里長空歳月悠

一夕新涼人已去

青灯独坐夜窓幽




 山寺夕景

一山泉石夕陽深

半日風光老苔侵

返照万株秋寂々

仙郷一路鳥帰林




20201122

 閑居

郷関千里夢

白雲無尽時

遊子斜陽下

帰臥白滝陲




20201128

ふるさとを遠く隔し四国路に住む人来たりて秋の日満つ

秋くるる野の色変わり光射す枯れ草の上夕風の吹く

20201208
古文書の清書終わりし秋の暮
葉落ちて枝の向こうに瀬戸の山
親鸞と俳句並べてこたつ台


20201214


大潮の真昼に光る冬鴎

木枯らしに今年最初の竹揺れる

道超えて船浮く海の師走風

海光り寒さに目を細く開け




20201227


コロナ禍の年暮れんとす雨の夜 為すべき多く為せる少なし

海を見る竹苅る丘は幼な日の 我が庭なれど草に満つ


2022 連歌ふうに

夕されば あんずのつぼみ 光りけり

峰に登るは 早春の月

青空は明日は雨かと尋ねけり

なお余りある 峰の輝き

霞たち群青の海 波光る

沖ゆく船の消える影かな

モバ流れゆく白波の下

人影迫り逃げる小魚


竹の子の出るにまかせて上をとり

雨降りて地やわらかく竹を出し

春おぼろうら山の草みな茂る

暮れんとしまだ光たり西の空

編集に皆忘れたり十日の日


今日終えて 少しくたぶれ いでたりと ふともれいでて いうのみかな

一つこえ また一つこえ 予期もせぬ 山こそそこに あると思いし


ガスも止め庭も枯らして空き家のように思う人あり福山の家

一人ずつ子ら巣立ちゆき二人には広すぎる家思い出の家


形変え テレビ枕の スポンジは 主なき部屋で 朽にけるかな

あきたけて 朝の冷気に 目覚めては ふと口ずさむ 古詩の数々


月の砂浜 風さやか

遠くで光る 灯台の

灯りもかなし 初恋の

あなたの面影 夢の中


砂浜焼ける 太陽の

光に映る 浮き島に

別れも悲し 青春の

思い出流す 引き潮に


春まだあさき 霞空

赤い夕日に 頰染めて

古寺の尖塔 故郷へ

思いは帰る 渡しぶね



しらしらと朝日に光る道をゆき煙に化して姉はゆくなり

西日さすベッドにてコンビニで求めしアイスは溶けて手を落つ

幼き日の夕餉の席の祖父の不在をたずぬこの世の名残に

父も母も姉も揃って逝きし悲しみの秋はさびしき

我が姉弟を祝福せし祖父母の元に姉はゆきけり