時期不明
実朝哀歌
青葉繁れる 八幡宮
月もおぼろの 大銀杏
語るいにしえ 段葛
浮かばぬ船も 朽ち果てて
潮風の舞う 弓が浜
ああ 実朝の 夢はるか
わが越え来れば 伊豆の海
沖の小島に 波の寄る見ゆ
胸に秘めたる 右大臣
ゆれる松明(たいまつ) 雪あかり
おりる石段 運命の
闇に飛び出す 黒頭巾
鮮血の舞う 雪の上
ああ 実朝の 夢はるか
磯もとどろに よする波
われてくだけて 裂けて散るかも
雪に写りし 松明に
見守る公卿 影あわし
ああ 鎌倉の 土に散る
20061001
月変わり雨の日曜しとしとと草を濡らして秋は深まり薩摩芋赤き薄皮はがさんとぽろぽろ落ちる秋の味覚や
桜葉の枯れて小枝にかかりけり秋のおとづれ庭の隅にも
ミニ薔薇の赤き花弁をぬらす雨音もなく降る秋の日の暮れ
あもあますあまとあまむすあまちすと覚えし日々は遠き日の夢
秋雨
風来巻雨日黄昏
木葉連村鳥雀喧
秋水茅蘆人不寝
開芳相對菊花園
足の指藁をはさんで縄をなう遠きむかしの雨の日の午後
故郷(ふるさと)の夕日を浴びた柿の実にここにも秋の訪れを知る
秋の夜の澄み渡れれば月明かり庭に回りしこの夕べかも
もののふの八十路を前に曾孫(ひいまご)の生まれるを聞く年深からし
雨降って寒さ追い越す衣替え
秋晴れや朝夕のため衣替え
稲刈れば雀集うて日も忘れ
秋の日や山路を急ぐ老夫婦
遅起きの雨にはじまる神無月
秋夜
幽庭一夕草虫聲
半夜天空月色明
灯火少年窓下座
青編閑拾厭虚名
飛行機に負けじと湖水鴨渡る
秋深み鳴く虫の音も澄み渡り雲いの月の蒼き夜かな
故郷(ふるさと)に変わらざりけり夕暮れの海山川に秋風の吹く
おぎの葉に秋吹く風はもの言わでただ眺むるは夜半の月かな
稲穂干す田の畦道に雀来てせわしせわしと日の暮れるまで
やまざとの日暮れの近き木の葉道秋風さけて鳥らかくるる
自転車の家路を急ぐ長き影
灯もつけでどこかせわしき秋の暮れ
秋の夜やパソコンの音ころころと
携帯の着メロ響く秋の月
少年の帰る夜道の秋の風
夜想
風露西流夜漸深
星光隔在憶人心
白雲万里少年夢
月影不知千古侵
2006年1101
平積みの本は押し寄せ蟹のごと
20061102
公園の桜染まりて赤色に夕日を受けて秋風に舞う
午後の日は斜めにさして日影避けメダカ静に泳ぎ餌(え)を喰う
雲続く東の山はどんよりと煤煙覆う霞のごとく
黒檀で彫刻した鬼の面寅彦が言う菱の実成れり
藁塚があったあたりに雀来て
岩手より甥の送りし林檎噛む
風吹いて夜のサフラン海辺街
追懐
往事追懐斜照中
氷心老痩立秋風
幽庭寂歴花開落
万里鵬程落日紅
20061103
渦巻きの登る山道彼方には雲光りたる蒼き峰々
弥高山遠き山々椀久の中にすっぽり囲まれて
蒼き空澄みわたれども木の葉道午後の日かすか夕暮れのごと
木の葉散る千峯谷に続く道
葛の根を猪食らい土起こす
棕櫚の木に蔦は絡まり枯れ尾花
萩は枯れ櫨赤ばみて日は翳り
弥高山
奇峰深浅問蒼穹
雲影仰看西復東
晩艶清閑山色秀
重過秋径古村中
20061104
千光寺菊人形は遠く去りいにしえのごと猿は遊べり
カタコトと子供電車の静けさよ菊人形で賑わいし山
三重の岩の下から見おろせば小さき海は秋の日映す
奇岩這う菊盆栽の午後の日や
フランスの秋景色観る千光寺
寺楼より眺むる古寺は秋日和
千光寺
禅扉古塔寺楼東
映水魚家秋気中
暫対菊花天色淡
仙郷十里晩鐘通
20061105
秋の虫去りし公園満月照らし静に歩む
秋の日は落ちて黄昏迫り来る夕凪亭の日曜の午後
ひたひたと暮れゆく秋の山ぎわに白き満月静に登る
オナモミのガードレールを越えて生え
水源地鴉と雀鳩も来て
葉は落ちて柿の実だけに夕日照る
秋景
万壑千峰立晩風
連天一碧白雲通
清遊快意夕陽寺
遠近秋山樹樹紅
20061106日
朝夕の次第次第に寒さ増しいつのまにやら冬のおもいぞ
立冬の日を前にして曇り空低きに流れ日は弱まれり
晩秋の朝の冷気や薄曇り
野良猫は落ち葉のしとねかきまぜて
山茶花の蕾緑にふくらみて
見上げれば夜の公園カシオペア
偶成
山寺枯林微雨中
斜陽淡照又多風
送秋草屋蕭条日
落葉庭陰銀杏沖
20061107
朝焼けに柿の実一つ朱に映えてさやさやと揺れ木枯らしの吹く
立冬に震える今日の寒さかな
立冬朝
行人前日仰蒼穹
一樹枯枝庭半弓
巳看暁来残月白
四山秋去半窓風
20061109
開店の日を違えたり郊外の集合店舗夜の賑わい
太陽の前を横切る水星は惑星なれど住む望み無き
ひっそりと八つ手の花は白く咲き
立冬の嵐は去りて日は照りぬ
寒林
午日寒林枯木枝
逍遙一路日光移
村園小至初冬侯
柿影鐘声日暮時
20061110
小雨降る初冬の夜は暖かで晩秋といえどおかしくはなし
竜巻の起こりし冬は常に無く遠雷の音近づきて庭の葉響く
この頃の雷などは珍しく天かける音いぶかりて見る
寒凪の日のあとこそ用心が
枯れ蔓を引く猫の子に日が当たる
枯れ蔓は根元幾重に絡まれり
歳月
一棹扁舟碧水潯
江村曲裏夜森々
閑亭静座清風下
志業無効歳月深
20061113
コンビニ栄えて耕地荒れる 嗚呼
公園を肥満の烏散歩する
蛇の皮崖にかかった通学路
櫨の木は故郷の山に紅く燃え
田畑(でんばた)はいつの間にやら草覆いやがて原野に変貌す
育ち見し山畑は蔓草覆い桐の木生えてもとの山に戻りけり
夏過ぎて秋に生まれし野良子猫冬の雷はじめてぞ聞く
晩秋
南窓負暖倚柴門
門巷羊童風日温
百草成堆秋已老
暮寒随処夕陽村
20061114暖冬と人は言えども冬空は日々に寒さが増していくよう
開店の人溢れたり冬木立
初冬
農夫不語午光移
日暮田園草木衰
山圃蕭々人影悄
橙黄枯葉入冬時
20061115
朝焼けや老婆の庭に柿熟れる
朝焼けや老婆は柿をもぎもせず
南天の実紅く染まる朝焼けや
冬薔薇庭は枯れしも紅ひとつ
寒夜読書
一灯凭几夜沈沈
尚友逍遙万古心
四壁窓前書満架
恣情閉戸惜光陰
20061116
何年も家路をいそぐ道の辺にモールの灯り煌々と照る
寂しくて暗い帰宅路大型のモールができて別の世界に
秋ならば雀変じて蛤が雉子も変じておお蛤に
人虫の去りし公園新月を待つ
偶成
暗香月裡不眠人
想昔寄書一度春
哀憐玉笛空入夢
迎来妙舞喜心伸
20061117
偶感
寒光凛凛月皚皚
苦楽千年去復来
往事遺編孤客夢
前途無跡雁声哀
20061118
初時雨家無き猫は濡れにけり
山茶花の紅き花にも冬の雨
雨夜
寒窓負暖獨看書
尚友巻舒與世疎
一雨冷風三径草
孤灯陋屋愛閑居
20061119
桜葉は冬の公園降る雨に 紅く染まりてはらはらと落つ
山漆山道近く染まりいで手折ってみよと招くが如く
黄黄緑緑の葉叢冬木立ポプラの変化ここに始まる
紅葉
錦繍雨餘流水音
孤村山寺暮鐘沈
浮生幽賞楓林晩
奪目仙郷満地深
20061121
偶成
一去知君愛眼晴
爾来落月夢魂驚
浮雲俯仰寒灯下
百世行人故旧情
20061123
冬の日は静かに過ぎて陽も弱し
野良猫の入りし庭に冬の雨
さやさやと落ち葉も動く冬の夜
銀杏散る姿優美に冬の日はやや暖かき午後の雨まで
買い物に車集いて祭日は忙(せわ)しく過ぎて冬の日のゆく
白と黒交互に昇る昼火事の煙の色は非情なりけり
静夜
展巻遺編把燭看
詩思撥尽忘悲歓
冷風胸裏千秋意
窓下残紅夜読寒
20061124。
昼の日を浴びる子猫や家はなし
小春日に目を細めたり家なき猫(こ)
木枯らしに尻尾(しっぽ)丸めてマフラーに
古書店の目当ての本は無くなりてライバル増えて喜ぶべしや
持てるもの書いたき本を確かめて行けども既に売れてしまいし
三日月が巡り来たらば一段と冬の寒さがさらに深まり
無題
落葉昏鐘月半規
初冬短日獨敲詩
寒鴉孤影疎林外
小至荒村日暮時
20061126
太閤の築きし城を眺めつつ遠き日想う冬の日の夜
錦繍の野山を映す寒水に鴎舞い来て漣(さざなみ)たてり
紅楓金の鳳凰今飛ばむ
20061127
閒居
臨水青苔別有天
閒窓養拙日如年
髙歌心曲後凋色
閑坐南軒一鏡円
20061128
偶成
歳月空餘倚夕蒼
江山秋色月如霜
雄図尚有人無識
満目暮雲夢一場
20061129
ツワブキの黄色い花のなつかしき
百合の種冬空に伸び枯れたまま
冬景
斜日枯林一鳥帰
昏鐘古径落楓飛
初冬邑舎炊烟上
江上寒波灯影微
20061130
山茶花の咲き初めてやページ閉じ
偶成
岸柳一枝雲自帰
西郊村舎錦楓飛
初冬短日渓声裡
百草軽寒淡夕暉
偶感
誦読菲才歳月過
光陰一夢去来波
蒼天獨往斜陽冷
多望沈潜今若何
初冬寒月
短日蕭条寒月窺
空庭籬落午陰濃
晩鴉柿影初冬興
落葉枯林百草萎
寒夜
尚友寒窓自浩然
閑庭竹径月光穿
松陰佳客幽人有
耿々夜闌一鏡円
夜寒
葉尽猿声気不平
白雲枯柳夜寒生
連山露底鳴幽鳥
一路三更残月明
年末
歳月匇忙将暮時
陳編膝下寸心知
夢魂措大相思杳
晩節従容生有涯
暮雨
高楼暮雨緑苔侵
一坐閒窓人未眠
卓落幾篇堆浄机
索居誦読夜正深
偶感
寒窓小雨葉堆池
只有空庭日暮時
凭几三更冬夜永
辛勤案句独敲詩
静夜
青灯窓外夜方深
寒鳥枯枝斜月臨
尚友展巻猶不倦
乾坤万里夢中尋
夜読
紅残古樹夜窓虚
擁几潜心独巻舒
星彩陵々灯下坐
草堂幸有一床書
20201120
秋夜詩
虫声満地一天秋
万里長空歳月悠
一夕新涼人已去
青灯独坐夜窓幽
山寺夕景
一山泉石夕陽深
半日風光老苔侵
返照万株秋寂々
仙郷一路鳥帰林
20201122
閑居
郷関千里夢
白雲無尽時
遊子斜陽下
帰臥白滝陲
20201128
ふるさとを遠く隔し四国路に住む人来たりて秋の日満つ
秋くるる野の色変わり光射す枯れ草の上夕風の吹く
20201208
古文書の清書終わりし秋の暮
葉落ちて枝の向こうに瀬戸の山
親鸞と俳句並べてこたつ台
20201214
大潮の真昼に光る冬鴎
木枯らしに今年最初の竹揺れる
道超えて船浮く海の師走風
海光り寒さに目を細く開け
20201227
コロナ禍の年暮れんとす雨の夜 為すべき多く為せる少なし
海を見る竹苅る丘は幼な日の 我が庭なれど草に満つ
夕されば あんずのつぼみ 光りけり
峰に登るは 早春の月
青空は明日は雨かと尋ねけり
なお余りある 峰の輝き
霞たち群青の海 波光る
沖ゆく船の消える影かな
モバ流れゆく白波の下
人影迫り逃げる小魚
春
竹の子の出るにまかせて上をとり
雨降りて地やわらかく竹を出し
春おぼろうら山の草みな茂る
暮れんとしまだ光たり西の空
編集に皆忘れたり十日の日
今日終えて 少しくたぶれ いでたりと ふともれいでて いうのみかな
一つこえ また一つこえ 予期もせぬ 山こそそこに あると思いし
ガスも止め庭も枯らして空き家のように思う人あり福山の家
一人ずつ子ら巣立ちゆき二人には広すぎる家思い出の家
形変え テレビ枕の スポンジは 主なき部屋で 朽にけるかな
あきたけて 朝の冷気に 目覚めては ふと口ずさむ 古詩の数々
月の砂浜 風さやか
遠くで光る 灯台の
灯りもかなし 初恋の
あなたの面影 夢の中
砂浜焼ける 太陽の
光に映る 浮き島に
別れも悲し 青春の
思い出流す 引き潮に
春まだあさき 霞空
赤い夕日に 頰染めて
古寺の尖塔 故郷へ
思いは帰る 渡しぶね
しらしらと朝日に光る道をゆき煙に化して姉はゆくなり
西日さすベッドにてコンビニで求めしアイスは溶けて手を落つ
幼き日の夕餉の席の祖父の不在をたずぬこの世の名残に
父も母も姉も揃って逝きし悲しみの秋はさびしき
我が姉弟を祝福せし祖父母の元に姉はゆきけり