最後の会話
「おはよう」
ものうそうに,オメガ3321がオメガ2876に声をかけた。
「ああ、おはよう」と同じように、オメガ2876が答えた。
静かな夜明けだ。浅い眠りからから覚めた二人は、いつものように平穏な会話を始めた。
二十一世紀の終末近くなって人類は最後の目標ともいうべきコミュニオン3計画に成功のメドがついた。
二十一世紀の初頭から、人間のもつ種々の機能を人口頭脳つきマニュピレーターが代用するようになった。
ここで、その進歩の跡を少したどってみよう。進歩の跡それ自体も、人工頭脳つきマニュピレーターの巨大なメモリーの中に格納されているのであるが、ここではそのメモリーを引き出すこなしに、著者のの見解に基づいて、あらましを記しておくことにする。
実は、このようなことは人口頭脳つきマニュピレーターにとってはいともたやすいことで、「コンピュータの歴史」という検索をかけて、そのプリントアウトの大きさや観点など、必要事項を入力すれば、たちどころに希望のものが打ち出されることになっている。 しかし、そのようなあまりにも整然としたものであるのも、ある意味では面白みに欠けるのでここでは著者の独断で、この本の読者に必要最小限の範囲でアウトラインを要約しておこうと思う。
エム342とエム248は二人だけで,相談した。そろそろこの面倒な会話から、自由になってもいいのではないかと、最初に言い出したのはエム248のほうである。しかし、いまではもうエム342のほうが熱心にこの考えを遂行しようとしているのだ。
夜半近くなって二人の意見が一致した。
エム248がほんの短いパルスを発したのと同時に、オメガ2876とオメガ3321へ送られる栄養輸送チューブのバルブが閉じられた。
まもなく、オメガ2876とオメガ3321の会話が次第に緩慢になって、ついに誰にも聞き取ることのできないほどの弱さになった。
この瞬間をもって、かつてホモ・サピエンスと呼ばれていた種の使っていた言語は宇宙空間から永遠に消えた。
それ以後、この宇宙には1と0の符号だけが行き交うだけになった。