蛇っ子 -少年少女恐怖館ノ内-
蛇はかしこい動物だから、よく人間に化けて学校の授業を聞きに来るんだよ、と言われていた。お婆ちゃんがこどもの頃はこういう話を信じていた子はけっこういたらしい。
「今でも人間に化ける蛇がいるのかなあ」
千秋がつぶやいた。
「ははは、それはおばあちゃんが育った山奥の話だよ……。このごろは、蛇が人間に化けたという話は、とんと聞かんな」
もし、蛇が人間に化けたらどんな顔になるかな、と千秋は思った。顔よりもスタイルのほうが想像できた。きっとスラリとして、かっこいいんだろうな、と思う。首も細くて・・・、それから口は大きくて、目は細いかな。さらに、目の奥から独特の光りを出すかな、とか想像してしまう。そんな子いたかな、順番に思い出そうとしていた。
由香ちゃんという子は不思議な魅力をもった子だった。二年生になって転校してきた。運動がよくできて、いつも動きまわっている。そのせいでのどが乾くのか、いつも水を飲んでいる。水道の蛇口から直接飲んで、ここちよさそうに舌をだしてぺろっと口をぬぐう。切れ長の目がいっそう細くなって、かわいらしい。いかにもうれしそうな表情だ。しかし、この水を飲むところを人に見られるのは好きでないらしい。この前、赤い舌を出して、唇をなめているところに出くわしたら、じろっと睨まれた。一瞬背筋が寒くなった。こんな体験は初めてだった。人に睨まれただけで、こんな感じになるものだろうか、としばらくは頭の中から消えなかった。
でも、由香ちゃんはかわいい。いつも、見ていたい。いつも見ていると、それだけで、こちらまで楽しくなる。そんな気持ちは、実は私だけでなく、私の友達の何人かは、同じように思っていた。みんな、かわいい、と言うのだ。
そんな由香ちゃんが、突然病気になった。昨日から休みだした。今日も、来ていない。何だか、心の中にぽっかり穴が開いて、周りの世界が、ぼんやりと映っているようだった。と、同時に緊張から解放されたような、安らぎに似た気持ちにもなった。この気持ちは自分でも説明がつかなった