26 西鶴
井原西鶴は多作な作家である。もっともっと読まれていいはずだが、代表作が『好色一代男』などと好色とつくので、好色文学と見られてあまり歓迎さレないのではなかろうか。これは日本人にとって大きな損失である。
吉行淳之介現代語訳『好色一代男』、河出書房新社
吉行淳之介現代語訳『好色一代女』、河出書房新社
27 サルトル
サルトルはノーベル文学賞の受賞を拒否した。その理由は知らないが、それだけでも私が生きた時代の最大の思想家・作家であったと思う。だから、サルトルはこんなところでなく、1番に書かなければならないのだが、そうするとどの作品をあげるか迷う。
『実存主義とは何か?』は期待したものの、「実存主義は共産主義である」と言う結論にはいささか失望した。・・別に失望しなくても良いのであるが。彼の思い描く共産主義が実存主義的であったと思えば良いのであろう。実存主義の哲学が汎神論の哲学からの脱却であったとしたら、共産主義もまた汎神論の哲学の否定であるのだから、兄弟のようなものか。
サルトルには『嘔吐』と言う20世紀を代表する作品があるではないか、と言う人もあろう。残念ながら、私には『嘔吐』の面白さも意味もわからない。
28 チェーホフ
そろそろチェーホフについても書いておきたい。小説でも戯曲でも、登場人物が意外なことを言う。たとえば「犬を連れた婦人」では男は登場した時から最後に至るまで意外な行動をとり、女は女でまた意外である。
29 ヘミングウェイ
ペンギンで「老人と海」とモームのSumming Up を見た時、高校英語に近いモームの文体がわかりやすく、それから遠くへだたった老人と海はとっつきにくかった。しかし、すぐに逆転した。
30 海音寺潮五郎
謙信信玄の川中島の戦いを書いた『天と地と』は傑作である。
その海音寺潮五郎の愛読書は『孟子』と『戦争と平和』である。『戦争と平和』について次のように描かれている。
「数え年二十一の時に最初に読んでから、今日に至るまで少なくとも十三、四回は読んでいる。」(私の一冊、朝日新聞社) 引用は文藝春秋社『人生の本2 読書の楽しみ』、p.156 より。
私は今まで、この文章ほど感動し驚き、勇気を与えられた言葉はない。あの長い小説を十三回も読んでいる人が世の中にいるのだということに驚き、それでもまだ終わらずに読み続けるということにも驚く。ある程度長い小説を十三回も読めば、目の前の世界が変わるだろう。