2019年8月18日日曜日
化学反応と熱
化学反応と熱
1−1 発熱反応と吸熱反応
化学反応に伴い熱が出入りする。この熱を反応熱という。化学反応とともに熱が生成する反応を発熱反応,熱を周囲から奪いながら進む反応を吸熱反応という。 使い捨てカイロは発熱反応を利用したものであり,アイスパンチは吸熱反応を利用した製品である。
1−2 反応熱の測定
●●● 実験1 反応熱の測定 ●●●
┌────────────────────────────────┐
│実施日 年 月 日 曜日 限,場所( 教室)│
│天気( ),室温( ℃),湿度( %),気圧( mmHg)│
│班 ( 班),共同実験者( )│
└────────────────────────────────┘
目的 水酸化ナトリウムの溶解熱を測定することにより,反応熱の測定方法を理 解する。
準備 ビーカー(200ml),温度計,マグネッチクスターラー,水酸化ナトリウ ム(固体),天秤,メスシリンダー(100ml),薬包紙,薬さじ,ストップウォッチ方法
1. 乾いた200ml のビーカーの質量を測る。 (w1= g)
2. このビーカーに水を100ml入れ,水温を測る。 (t1= ℃)
3. 水酸化ナトリウムの固体を約2g天秤ですばやく測り,ビーカー中に入れて時 間を測る。NaOHは薬さじ (大) 1/3 程度。1.8gから2.4gの範囲ではいくらでも よい。 (NaOHの質量w1'= g)
30秒ごとに液温を測り,記録する。
┌─────┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┐
│時間(秒)│-30│ 0│ 30│ 60│ 90│ 120│ 150│ 180│ 210│
├─────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
│温度(℃)│ │ │ │ │ │ │ │ │ │
└─────┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┘
4. 時間と温度の関係を図に書いて ┌┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐
温度上昇t'1 を求める。 ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
(t'1 = K) ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
5. 比熱を1.0cal/gK,ビーカーの比熱を ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
0.25cal/gK, としてこのとき発生した ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
熱量を求めよ。 ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
6. 次に水酸化ナトリウム1molでは何 kcalの熱が発生したか,計算せよ。
7. 各班の値を記録して,平均をだそう。
┌─┬─────┬─┬─────┬─┬─────┬─┬─────┐
│1│ │4│ │7│ │10│ │
├─┼─────┼─┼─────┼─┼─────┼─┼─────┤
│2│ │5│ │8│ │11│ │
├─┼─────┼─┼─────┼─┼─────┼─┼─────┤
│3│ │6│ │9│ │12│ │
└─┴─────┴─┴─────┴─┴───┬─┴─┼─────┤
│平均 │ │
└───┴─────┘
8. 文献値に対する各班の誤差を計算してみよう。
9. 誤差の生じる理由を考えよ。
1−3 熱化学方程式
化学反応式とともに反応熱を表した式を熱化学方程式という。例えば,1−2で得られた,水酸化ナトリウムの溶解を表す熱化学方程式は次のようになる。
NaOH(固) + aq = NaOHaq + 10.6 kcal
aqは多量の水を表す。NaOHaqは水酸化ナトリウム水溶液のことである。
熱化学方程式は次のように記すことになっている。
㈰ 化学反応式の→の代わりに等号=を用いる。
㈪ 物質1mol当たりの反応熱の値を右辺にkcal単位で記す。発熱反応では+ 吸熱反応では−の符号を反応熱の値につける。(25℃,1atm の値)
㈫ 主体となる物質1molについての式を書くので,他の物質の係数が分数に なってもよい。
㈬ 必要に応じて物質の状態を示す語句を書き添える。
固体をs(solid), 液体をl(liquid),気体をg(gas)で表してもよい。
㈭ 熱化学方程式はエネルギーに関する関係式であるので,実際には起こらな
い反応について書くこともある。
1−4 反応熱
1 反応熱の種類
反応熱はそれぞれの反応の種類に応じて次のような名称で呼ばれる。
┌───┬────────────────────────────┐
│燃焼熱│物質1mol が完全に燃焼するときに発生する反応熱。 │
├───┼─────────────────────────────┤
│中和熱│酸とアルカリが中和して水1mol を生成するときの反応熱。 │
├───┼─────────────────────────────┤
│生成熱│化合物1molをその成分元素の単体からつくるときの反応熱。 │
├───┼─────────────────────────────┤
│溶解熱│物質1molが多量の溶媒に溶解するとき発生または吸収される熱量。│
├───┼─────────────────────────────┤
│融解熱│固体1molがすべて液体になるのに必要なエネルギー。 │
├───┼─────────────────────────────┤
│蒸発熱│液体1molをその沸点ですべて気化させるのに必要なエネルギー。│
└───┴─────────────────────────────┘
2 反応熱と熱化学方程式
┌───┬────────────────┬───────────┐
│燃焼熱│H2 + 1/2O2 = H2O(液)+ 68.3kcal│水素の燃焼熱,水の生成熱│
│ │C(黒鉛)+ O2 = CO2 + 94.1kcal │黒鉛の燃焼熱,CO2の生成熱│
├───┼────────────────┴────┬──────┤
│中和熱│HClaq + NaOHaq = NaClaq + H2O + 13.5kcal│ │
├───┼─────────────────────┼──────┤
│生成熱│C(黒鉛)+ O 2 = CO2 + 94.1kcal │ │
│ │1/2N2 + 1/2O2 = NO - 21.6kcal │NOの生成熱 │
├───┼─────────────────────┼──────┤
│溶解熱│H2SO4(液)+ aq = H2SO4aq + 22.8kcal │硫酸の溶解熱│
└───┴─────────────────────┴──────┘
3 その他の反応熱 (25℃,1atmの値)
┌──────────┬───────────┬──────────┐
│ 燃焼熱(kcal/mol)│ 生成熱(kcal/mol) │ 溶解熱(kcal/mol)│
├──────────┼───────────┼──────────┤
│水素 68.3│二酸化炭素 94.1 │NaCl -0.93│
│一酸化炭素 67.7│一酸化炭素 26.4 │NaOH 10.6│
│メタン 212.8│メタン 17.8 │塩化水素 17.9│
│プロパン 530.6│アンモニア 11.0 │KNO3 -8.1│
│エタノール 326.9│ベンゼンC6H6 -11.7 │エタノール 2.4│
└──────────┴───────────┴──────────┘
問い1 標準状態で5.60lの水素が25℃で完全燃焼すると,何kcalの熱が発生す るか。ただし,生成する水はすべて液体とする。
問い2 0℃の氷1.0gをすべて融解して,0℃の水にするには80.0calの熱が必要である。氷が融解するときの変化を熱化学方程式で示せ。
1−5 ヘスの法則
●●● 実験2 ヘスの法則 ●●●
┌────────────────────────────────┐
│実施日 年 月 日 曜日 限,場所( 教室)│
│天気( ),室温( ℃),湿度( %),気圧( mmHg)│
│班 ( 班),共同実験者( )│
└────────────────────────────────┘
目的 水酸化ナトリウム水溶液と塩酸との中和熱および,水酸化ナトリウムと塩 酸との反応熱を測定し,ヘスの法則の成り立つことを理解する。
準備 電子天秤(教卓),マグネチックスターラー,温度計,ストップウォッチ ビーカー(200ml),メスシリンダー(100ml)2
1mol/l塩酸,1mol/l水酸化ナトリウム水溶液
方法
A NaOH水溶液と塩酸との中和熱
1. 乾いた200ml のビーカーの質量を測る。 (w2 = g)
2. このビーカーに1mol/l 塩酸を50mlを入れて液温を測る。(t2 = ℃) 3. 塩酸に1mol/l 水酸化ナトリウム水溶液50mlを加えて,時間を測る。
30秒ごとに液温を測り,記録する。
┌─────┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┐
│時間(秒)│-30│ 0│ 30│ 60│ 90│ 120│ 150│ 180│ 210│
├─────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
│温度(℃)│ │ │ │ │ │ │ │ │ │
└─────┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┘
4. 時間と温度の関係を図に書いて ┌┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐
温度上昇t'2 を求める。 ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
(t'2 = K) ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
5. 水溶液の密度を1.03g/cm3 ,比 ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
熱を4.2J/gK,ビーカーの比熱を ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
1.0J/gK, としてこのとき発生 ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
した熱量を求めよ。 ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
└┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
6. 次に水酸化ナトリウム1mol では何kcalの熱が発生したか,計算し,中和熱 を熱化学方程式で記せ。
B NaOH(固体)と塩酸との反応熱
1. 乾いた200mlのビーカーの質量を測る。 (w3 = g)
2. このビーカーに1mol/l塩酸を50mlを入れ,さらに蒸留水を50ml加えたのち
液温を測る。(t3 = ℃)
3. 水酸化ナトリウムの固体の約2gを正確に測り,塩酸に投入し時間を測る。
30秒ごとに液温を測り,記録する。(NaOHの質量w'3 = g)
┌─────┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┬──┐
│時間(秒)│-30│ 0│ 30│ 60│ 90│ 120│ 150│ 180│ 210│
├─────┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┼──┤
│温度(℃)│ │ │ │ │ │ │ │ │ │
└─────┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┴──┘
4. 時間と温度の関係を図に書いて ┌┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┐
温度上昇t'3を求める。 ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
(t'3= K) ┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
5. 水溶液の密度を1.03g/cm3,比 ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
熱を1.0cal/gK,ビーカーの比熱を ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
0.25cal/gK, としてこのとき発生 ├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┤
した熱量を求めよ。 └┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┴┘
6. 次に1molの水酸化ナトリウムでは何kcalの熱が発生したか,計算し,反応 熱を熱化学方程式で記せ。
総まとめ
これまでに行った3つの実験からそれぞれの反応熱の間にどのような関係があ るか考えよ。また,3つの熱化学方程式を並べて書いてみて,それらの間の関係 について考えよ。
実験1と実験2の結果をまとめてみよう。(1molの値)。
┌─┬──────┬──────┬──────┬─────┬───┐
│ │ 1 │ 2 │ 3 │1+2−3│ │
│ │NaOHの溶解熱│中和熱A │中和熱B │ │ │
┌┴─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│実施日│ │ │ │ │ │
├──┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│天気・室温 │ │ │ │ │
└┬─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│1│ │ │ │ │ │
├─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│2│ │ │ │ │ │
├─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│3│ │ │ │ │ │
├─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│4│ │ │ │ │ │
├─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│5│ │ │ │ │ │
├─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│6│ │ │ │ │ │
├─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│7│ │ │ │ │ │
├─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│8│ │ │ │ │ │
├─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│9│ │ │ │ │ │
├─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│10│ │ │ │ │ │
├─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│11│ │ │ │ │ │
├─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│12│ │ │ │ │ │
├─┼──────┼──────┼──────┼─────┼───┤
│平均│ │ │ │ │ │
└─┴──────┴──────┴──────┴─────┴───┘
ヘスの法則(1840)
反応の前後において最初と最後の状態が同じなら,反応経路に関係なく反応熱の総和は一定である。
ヘス(Germain Henry Hess 1802〜1850)
「ヘスはジュネーブに生まれたが,3才のときからロシアのセント・ペテルスブ ルグに移り,終生この都にとどまって,ロシアの化学会のために尽くした人である。1828年には化学工業協会の設立者の一人となり,1832年以来鉱工業教修所の化学の教授を初め,各種の大学や高等諸学校の教授となった。その他,化学書の著述もあり,ロシア語の化学用語の制定の渉にも当たった。
しかし,ヘスの名を永遠に光あらしめるものは,その熱化学上における貢献,総熱量不変の法則(1836〜1841)の発見と確立である。化学を学んだ人で,一たびこの厳正にして歯切れのよい法則を知ったときの,爽快味を思い出さない人はいないだろう。この法則はベルトレーの反応熱と反応方向に関する法則やル・シャトリエの法則(1884)よりも早く,エネルギ−保存則(1848)よりもまだ早く出たところに一層の値がある。」
山岡望「化学史談㈼ギーゼンの化学教室」(内田老鶴圃新社)p.242
この法則に基づき,実際には起こらない反応の熱化学方程式を書いたり,また熱化学方程式の代数的利用により種々の反応熱を求めることができる。
問い3 一酸化炭素の生成熱Qは黒鉛の燃焼熱94.1kcalと一酸化炭素の燃焼熱
67.7kcalから求めることができる。それぞれの熱化学方程式を書いて求めよ。
┌─────┐ ───────────……C,O2
│CO,1/2O2 │+ 1/2O2 ↑ ↑
└─────┘ │ Qkcal
/ \ 67.7 │ ↓
Qkcal / \ kcal │ ─────……CO,1/2O2
┌───┐ 94.1kcal ┌──┐ 94.1kcal ↑
│C,O2 ├───────┤ CO2│ │ 67.6kcal
└───┘ └──┘ ↓ ↓
───────────……CO2
問い4 黒鉛からダイヤモンドをつくるときの熱化学方程式をかけ。ただし,黒鉛とダイヤモンドの燃焼熱はそれぞれ94.1kcal/mol,95.0kcal/molである。
問い5 エタノール C2H6Oの燃焼熱は326.7kcal/mol ,二酸化炭素と水の生成熱はそれぞれ94.1kcal/mol,68.3kcal/molである。エタノールの生成熱を求め。
問い6 ベンゼンの生成熱を求めよ。ただし,ベンゼン,黒鉛,水素の燃焼熱をそれぞれ781.0kcal/mol,94.1kcal/mol,68.3kcal/mol とする。
(-11.5kcal/mol)
問い7 アンモニア(気),塩化水素(気),塩化アンモニウム(固)の溶解熱はそれぞれ8.3kcal,17.9kcal, -3.8kcalである。それぞれ1molの塩化水素とアンモニアを含む溶液を反応させると,11.9kcalの熱を発生する。これらのことからアンモニア(気)と塩化水素(気)から塩化アンモニウム(固)1molをつくるときの熱化学方程式を求めよ。 (+41.9)
●●● 実験3 混合寒剤 ●●●
目的 吸熱反応について理解を深める。
┌────────────────────────────────┐
│実施日 年 月 日 曜日 限,場所( 教室)│
│天気( ),室温( ℃),湿度( %),気圧( mmHg)│
│班 ( 班),共同実験者( )│
└────────────────────────────────┘
A
準備 ビーカー(100ml)2,温度計,薬さじ,硫酸ナトリウム十水和物
硝酸アンモニウム
方法
1. 硫酸ナトリウム十水和物および硝酸アンモニウムを,それぞれ30gずつとり, 別々の100mlビーカーに入れる。温度計を差し込んで,両試薬の温度を測る。
2. 一方のビーカーに,他のビーカーの試薬を移して温度計でかき混ぜる。すぐ にどろどろの状態に変化してくる。かき混ぜながら温度変化を測定する。ビー カーに手を触れてみる。
質問
1. このとき温度が下がったのはなぜか。
硫酸ナトリウム十水和物の融点は32.4℃である。
硝酸アンモニウムの融点は169.6℃,溶解熱は6.1kcal/molである。
2. そのほかの組み合わせを考えよ。
B
準備 ビーカー(50ml),ガラス棒,水酸化バリウム八水和物Ba(OH)2・8H2O
チオシアン酸アンモニウムNH4SCN
方法
1. 水酸化バリウムの結晶約20gを50mlのビーカーに入れる。
2. さらに,チオシアン酸アンモニウム10gを加えてからガラス棒でよくかき混 ぜる。
考察
1. 水和水はどうなったか。この反応において水和水は重要だろうか。
2. この反応を化学反応式で示せ。
参考 寒剤
「氷と塩類とを混合すると,氷は融解して融解熱を吸収し,塩類の結晶はその溶けた水に溶解して熱を吸収するから,温度は漸次低くなり,あらかじめ共融混合物の組成に調整しておけば,混合物の温度は氷とその塩類との共融点まで下がり不変系となる。」
┌───────────┬────┬──────┐
│ 塩類 │ 氷 │ 共融点 │
├───────────┼────┼──────┤
│ NaCl 22.4 │ 77.6 │ -21.2℃ │
│ CaCl2・6H2O 58.8 │ 41.2 │ -54.9℃ │
│ NaCl 21.8 NaNO3 20.5│ 57.7 │ -25.5℃ │
└───────────┴────┴──────┘
数字は重量パーセント 理化学辞典(岩波書店)による。
1−6 結合エネルギーと反応熱
結合エネルギー……原子間の結合を切るのに必要なエネルギーを結合エネルギー
という。
┌───────────────┐ 例
│ H+H 水素原子2mol │ 水素の結合エネルギーは104.2kcal
│ ───── │ H2=2H−104.2kcal
│ ↑ │ │
│104.2kcal│ │104.2kcal │
│吸収する。│ │発生する。 │
│ │ ↓ │
│ ───── │
│ H2 水素分子1mol │
└───────────────┘
生成熱は,反応物質の結合エネルギーと生成物質の結合エネルギーの差に相当
する。
1/2Cl2(気)=Cl-29.0kcal ──㈰
1/2H2 (気)=H-52.1kcal ─ ㈪
H + Cl=HCl(気) + 103.2kcal ─㈫
─────────────────
1/2H2(気)+1/2Cl2(気) =HCl(気)+22.1kcal……㈬
H,Cl
─────────────────
↑ ↑
㈰ │
│ 吸 │
…………熱 │
↑ │ 発
㈪ ㈫ 熱
1/2(H-H) │ 1/2(Cl-Cl) │
─────┴────── │
↑ │
㈬ │
H-Cl ↓ ↓
─────────────────
問い8 アンモニアNH3 1.00molを完全に原子に分解するときの熱化学方程式を かけ。ただし,N-Hの結合エネルギーは92.3kcal/molとする。
問い9 ヨウ化水素HIの生成熱を次の結合エネルギーを用いて計算せよ。
H-H 103.3 kcal/mol I-I 35.6kcal/mol
H-I 70.5 kcal/mol
問い10 下の数値から過酸化水素中のO-Oの結合エネルギーを求めよ。
過酸化水素(気)の生成熱は34kcalである。
水素の結合エネルギーは104kcal である。
酸素の結合エネルギーは118kcal である。
O-Hの結合エネルギーは110kcal である。
問い11 水(気)の生成熱は,57.8kcal/mol,H-H,O=Oの結合エネルギーはそれぞれ104.2kcal/mol,118.4kcal/mol である。過酸化水素H-O-O-Hの解離エネルギーを 求めよ。ただし,O-Oの結合エネルギーは30.5kcal/mol である。
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なべて移ろいゆくものは、
比喩にほかならず。
足らわざることも、
ここにて高き事実となりぬ。
名状しがたきもの、
ここにて成しとげられたり。
永遠の女性、
われらを高みへ引きゆく。
ゲーテ「ファウスト 悲劇」手塚富雄訳(中央公論社)p.418
しかしこれらの人々もやがて赤々と夕焼けた地平線の果てに小さくなり、見えなくなった。
すでに夕映えは消えていた。ただ風だけが、空虚な砂漠を吹き、砂丘の斜面にごうごうと音をたてていた。砂はまるで生物のように動いて、兵隊たちの踏んでいった足跡の乱れを、濃くなる闇のなかで、消しつづけていた。
辻 邦生「背教者ユリアヌス」(中公文庫)下p.426
┌──────────────────────────────────┐
│ 化学 ─物質のなりたち── (5年 1990年度版) │
│ │
│ 1991年2月27日 をはり │
└──────────────────────────────────┘