弘法大師伝記一
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弘法大師御伝記序
檐(のき)のしづくのとくとくときよきをあがめてこれをこひ
あしきをこばみてそれを捨、二つのものはいづれか
勝、いづれか劣れる。されは詩には見だれるを削て、
門なみにうたひ、書にはおさまれるをほめて、家一と
におこなふ、実に故あるかな、こゝろみに是をことはらん、
それ㐧一上にのぼり、下にくだつて、月日よべにめゞり
あしたにはこび、山河高にそびえ、長きになかれてか、
人畜験にあゆみ、横にはしりちじの名まへはりつらな
つて万の物かぎりなき中に貴して旦うやうやし
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きは、人にならへるわるし、然れ共その心をうしなへる
僕は砂よりも多く、その徳を盛にする賢きは玉には
よりもともし故に五百にも得かたく、千載にも遇こと
まれ也、昔光仁天皇の御宇宝亀五年甲寅
の年なみに当て讃岐の国多度の郡に妙に
挺生せる大士あり、人の形にして仏のさとります法
の諱は空海和尚、登壇散花の御名は遍照金剛、
後に延喜の帝弘法大師とをくり給ふ、天精粋
をゆるして、四表におよひ、地虚霊を見がいて申方に
かゝやき、生なかに寂薄の生石蹟を慕ひづとめざる
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に真常の大妙にふける兼に則野主その願
ひに随てはして法をもとむる人に櫂じ延暦の
末に纜を解て入唐し大同の始に猿をめくらして
帰朝す召身即仏の道此日にいたり頓悟頓満風
是時にしく六凡親すればわれかれ睦して万蓋
ぬれはこゝかしこ静也況や又通を飛せば目連身侭
り定を修すれは除疑念噪ぎ智を振へは文殊諍
唇を沽し悲を倩へば観音青眼を期す若夫照学
に出れば襁襴にして文翁之すゝまざるにとりひし
き草聖につけは、兮角にしも伯英て猶いやしきに