2020年8月30日日曜日

一谷嫰軍記 三段目

  一覧 ▶️因島重井町文化財協会 


大阪船町
加嶋屋清助板
再版
熊谷陣屋の段
一谷嫰軍記 三の切
 一谷嫰軍記 三の切
奥へ連て行。相模ハ障子。
押開き。日も早西に傾きしに
夫の帰りの遅さよと。待間
程なく。熊谷次郎直實。花の
盛の敦盛を打て無常を
悟りしが。遉(さすが)に猛き武士も。
物の哀を今ぞ知る。思ひを胸
に立帰り。妻の相模を尻目
にかけて座に直れバ軍次ハ

やがて覆(おほひ)に成。先達て平次


******
(段切り)
長居ハ無益(むやく)とみだ六ハ鎧櫃
にれんしやくをかけた思案の
しめくくり。これこれこれ義経殿。もし又

敦盛生返り。平家の残党
駆あつめ。恩を仇にてかへさはいかに
ヲヲそれこそハ義経や。兄頼朝か助り
て。怨(あだ)を報ひし其如く。天運(てんねん)次第
恨を請(うけ)ん。けに其時ハ此熊谷

浮世を捨て不随者と源平
両家に由縁(ゆかり)ハなし。互に争ふ
修羅道の。苦患(くげん)を助る回向の

やく。此みた六ハ折を得て又宗清

と心の還俗。我ハ心も墨染


に黒谷の法然を師と頼ミ

おしへを請ん。いざさらバ。君にも

また(繰り返し記号)御安泰。おいとま申   

と夫婦づれ。石屋ハ藤のお局(つぼね)を

伴ひ出る陣屋の軒。御縁か有ハと



女同士命があらバと

堅固でくらせの御上意に

有がたなみた名残りの涙。 

又思ひ出す小次郎が。首を

手つから御大将。須磨寺


に取おさめ末世末代敦

盛と。其の名はくちぬ金札(コガアネザネ)

武蔵坊が制札もはなと

おしめど、花よりも、おしむ

子をすて、武士を捨、住所(すみどころ)


さへ定めなき有為転変

の世の中やと互ひに見

あわす顔と顔、さらば(繰り返し記号)、

おさらばの声もなみだに

かきくもり分れて。こそハ出て行。