2019年5月30日木曜日

ふるさとの史跡をたずねて 第133回 西浦新開(因島中庄町西浦区)

 中庄町西部の西浦区の干拓地について見てみよう。
 重井町小田浦(おだのうら)の南で中庄町になる。その海岸地帯は北から南へかけて、山根新開、利吉新開、嘉助新開、黒崎新開と呼ばれている。そして田熊町に入って黒崎新開、瀬戸の浜となる。したがって黒崎新開は要橋から南、町界を挟むということになるのだろう。それぞれの新開の完成年と推進者は次のように記録されている。
 山根新開、天保7年(一八三六)完成、宮地儀三太(屋号山根)。利吉新開、文政7年(一八二四)完成、徳永の長百姓利吉(屋号浜屋)。嘉助新開、天保6年完成、東屋嘉助。黒崎新開、天保6年完成、庄屋竹内(宮地)与三兵衛。
 利吉新開と嘉助新開の間に西浦漁港がある。西浦のバス停のところにある巨大な石碑は、昭和6年に西浦漁港を拡張した時のもので、その大きさに圧倒されたので今回はこれを載せておく。

 なお、黒崎新開の東(山側)が「天鵞絨ケ原」である。この難しい字は音読すれば「てんがじゅう」であるが、ポルトガル語のビロードに中国語の白鳥の織物を表す天鵞絨を当てたもので、ビロードと読む。こういうのを当て字という。ジャガイモと馬鈴薯は別の植物だから、ジャガイモのことを馬鈴薯と言うのは間違いだと主張したのは牧野富太郎博士である。オリーブと橄欖(カンラン)も同じことでオリーブの誤訳と書いている辞書もある。当て字であるなら許容されるのであろうが、それぞれ別のものである。
 さて、ビロードと言っても若い人は知らないだろう。現代では、もっぱらベルベットと呼ばれる柔らかで光沢のある織物で、ドレスやカーテンなどの高級品に使用される。

 色としては濃い青みがかった緑色というから、竜王山と山伏山の北西の山麓であるから、繁茂した木々が、そのような色に見えたのかも知れない。ここまで書けば、因島医師会介護老人保健施設ビロードの丘という優雅で古めかしい名が、その土地の名に因むということが理解していただけたものと思う。(  写真・文 柏原林造)