2024年12月24日火曜日

夢       ---- プロローグ----

  同じ夢を何度も見た。来る日も来る日も私は、山を越えて村々を訪ねていた。ただ、訪ねることが全ての目的でもあるかのように。自分が何であるかはわからない。ただ、村から村へとさすらう旅人のようだということはわかった。 

  風は昼すぎから吹き出した。山頂から吹き降ろす風は、時に急旋回をして、山を覆う木立の葉叢を震わせた。
 夕暮れになって風は更に強くなった。しかし、雨は降っていなかった。
 今日はこのあたたりで休みたい。そう思って、雨風を凌げる場所を探した。無ければ、大木や岩の下でもいい。どうせ一夜の宿りに過ぎない。しばらく歩いて、竹藪を背にした一軒家を見つけた。
 随分と荒れた空き家だが、それでも野宿よりはましだと思った。一夜の宿りとすることにした。
 何年も人が住んでいないらしく、くすんだ土壁も半ば崩れ、半ば苔むしている。その下には、蕗に似た緑色の草が我が物顔に茂っている。
  土壁の切れ目から入ると、ちょうどあばら屋の正面に来た。雨戸の半分ほどが破けている。そこから入ることにした。日は沈みかけているせいか、家の中は薄暗い。それでも、私一人が横になるほどの隙間はすぐに見つかった。寝るには少し早いかと、思いつつ横になった。昼間の疲れか、すぐに寝入ってしまった。
 横になってどれくらい、時間がたったのだろうか。

 ざわざわと、裏の竹薮が鳴った。笹が舞うのか、雪が降っているような音がそれに交じった。しかし、今は雪の季節ではない。
 さっきから、気になっているのだが、隣の部屋で何かが動いているような音がする。ごそごそと動くというよりも、家全体が動いているような感じだ。
 誰かが外から戸をたたく。
「木へんに春の字のていていこぼしは内か?」 それに答えるように、中から、言う。
「誰なら?」
「わしは、とうやのばずじゃ」
「そうか、こんやは、ええ肴があるから、入れ!」
 しばらくして、また戸をたたく。   
「木へんに春の字のていていこぼしは内か?」 同じように、中から、言う。
「誰なら?」
「わしは、さいちくりんのいちがんけいじゃ!」     
「そうか、こんやは、ええ肴があるから、入れ!」
 またしばらくすると、戸をたたく。
「木へんに春の字のていていこぼしは内か?」 同じように、中から、言う。
「誰なら?」
「わしは、なんちのぎょじょじゃ」
「そうか、そんなら、こんやはええ肴があるから、入れ!」
 ………… 
 ………… 
 隣の部屋が明るくなった。 
 何物かが歌を歌いながら踊りだした。 
  とうやのばずは、愛しいことよ、
  いつを楽とも思いもせいで、
  腰は砕けて、足打ち折られ、
 後は野山の土となる、ああ、土となる。
  あ、よいしょっと
  ・・
 今度は、別のものが歌いだした。
  さいちくりんのいちがんけいは、
  世にもまれなる孤独な生まれ、
  人の情けはようこうむらで、
  西の林に一人ねる、一人ねる。
  あ、よいしょっと
  ・・
 また、別のものが歌いだした。
  なんちのぎょじょは、つめたい身やな、  
  水を家とも床ともなして、
  いつになっても浮き世にゃ棲めぬ、
  ああ諦めた、諦めた。
  あ、よいしょっと
  ・・
 こんどは、歌うというよりも呟くという感じで、 
  ふるいちゃかすはきらわれものぞ。
  わしはこの家に千年住んだ
  ちゃかすでござる。
  かびにまみれたほこりを喰って、
  生きてきたのは何かの因果。
  ああ殺生ぞ、殺生ぞ。
  あ、よいしょっと
 ……
 何のことだろうか? 私はいつのまにか足ががたがたと震えていた。
「今夜はどうやってもおんがら、またあしたの晩にしょうや」
 誰かが言った。そう言ったかと思うと、水が引いていくように、隣の部屋は静かになった。
 もとの闇の静けさに戻った。
 いつの間にか、風はやんでいた。
 ……
 ……
 私は、そのまま深い眠りについた。



参考:佐藤米司編、「岡山の怪談」(日本文教出版)による。

2024年12月21日土曜日

出航

 出航

 

 三羽のユリカモメが白い腹をみせて数回旋回した。

 遠くで別の船の汽笛が長く尾を引いて鳴った。

 緑色の海水が船と桟橋の間を流れていく。ゆれる船の間から、白い泡がまわりながら昇ってきた。白い巨体が静かに振動を続けている。スクリューが海水を逆巻かせている。

 六甲の山並が初夏の日を浴びてまばゆい。

 六甲山の上に白い雲がかかっているほかは、雲ひとつなく、澄んだ青空がどこまでも広がっていた。

 神戸港メリケン埠頭では、マルセイユ行きの豪華客船「ベルサイユ」が、出航を目前にしていた。

「さあ、いよいよ出発よ。日本ともお別れよ。二人ともよく見て。これがニッポンよ。お母さんの生まれた国ニッポンよ。よく見ておいてね」

 長身の美紀は、和彦とリカを抱くようにしてしゃがみ、二人の耳元でささやいた。

 それは、二人に言うというよりも、むしろ自分に言っているようなものだった。今度日本へ帰って来るのは、いつのことだろう。ずっとずっと先か、あるいはもう永遠に帰れないのではなかろうか、と思ったりした。別に確かな根拠があるわけではない。ただ、漠然とそう思っただけである。

 しかし、それでもいいと思っていた。もともとフランスでずっと生活するつもりだったのであるが、夫のシュノンの都合で日本に帰っていたのだから。そのシュノンも今はパリにいる。

 シュノンからパリに来るように連絡があったのが三か月前のことだった。父も母もすでにいないし、たった一人の身内である弟も、今はニューヨークへ行っていないのだから、日本にこだわる必要はなかった。今回フランスに行けば、もう戻る必要はないも同然だった。

 でも、戻る必要がないというのと、戻れないというのはやはり異なるように思われた。今まではもう戻るまいと準備をすすめてきたが、今、日本を離れると思うと、やはりその船出は永久のものではないと、自分に言っておきたいような気持ちになった。そう思うと、かならず帰って来なければならないし、帰れないということはやはり不安の材料になるのだった。

 美紀はライトブルーのツーピースで、白のベレーの下からのぞいたロングカットの髪が亜麻色に輝いていた。さっきまでしていた濃紺のサングラスをはずすと、二〇代後半の、細長い顔が現われた。形のよい鼻、涼しげな目元と対照的な大きな瞳が海辺の太陽に輝いた。手袋をはずした手には、海辺の太陽が直接あたり、最初の日焼けの痕跡を印していた。

 五才になったばかりの和彦は、クリーム色のシャツにグレーの半ズボンで、白いハイソックスが太陽の光を足元で強く反射していた。

 三才のリカは、帽子、ワンピースとも真っ白で、黒い靴だけが、白いデッキの上で特別目立った。白い帽子の下からかすかに伸びた髪は金髪だったが、帽子の作る日陰の部分は黒っぽく見えた。

 銅鑼が鳴る。汽笛が鳴る。

 バンドが演奏する中を、静かに船は桟橋から離れていった。紙テープが延び、やがて切れて海水の中に落ちて一際鮮やかな色になった。そして、弱々しく曳かれていく。海面を遊泳する細長い小魚が餌と間違えて追った。ときおり、小魚の体が銀色に光った。

 見送りの人こそいないが、やはり、旅立ちというものは人を感傷的にするものらしい。何らフランスでの生活にも、長い船旅にも、不安はないのに、美紀は悲しくなった。頬をひとりでに流れる涙を、そっと拭いてから、二人を強く抱きしめた。

 美紀と二人の子供たちには、見送られる人こそいないが、埠頭では、この親子の出航を見送っている二人の男性がいた。一人は黒いサングラスをかけて、無地のグレーのスーツを着た男で、美紀と二人の子供たちが、間違いなくタラップを登り、出航したことをあたかも義務ででもあるかのように、人垣の間から、静かにうかがっていた。

 この男は、親子三人が神戸駅へ下りたときから、ずっとつけて来ていたのだが、もちろんだれにも気づかれてはいなかった。

 もう一人の男もやはりきちんとしたスーツを着ていたが、その色は淡いブラウンで、いかにも、もの静かな印象を与えた。この男は別のところで、デッキに立った美紀と二人の子供を寂しそうに見つめていた。

 もちろん、これら二人の男性のことを、美紀が知ろうはずはなく、また気がつきもしなかった。

 和彦とリカは他の客にあわせて、不特定の見送りの人波に向かって、いつまでも手を振っている。幼い二人にとっては、今日の日も、特別の日になるはずであったが、果たしてそのことがをいつまでも記憶の檻に閉じ込めておくことができるであろうか、美紀には自信がなかった。しかし、こうして無心に手を振り続けて、この日の出来事を無意識のうちに心の奥底に焼き付けていればそれでいいのかもしれないと思った。記憶の奥底に沈潜した像は時の流れで洗われ、定着されて、いつの日にか突然甦ってくることもあるし、こないこともある。それはそれでよいのだ・・・。

 バンドの演奏はいつまでも続いていた。

 青い空もいつまでも続いていた。ただ、六甲山の上にかかる白い雲が、心持ちうすくなったように、美紀には感じられた。

蛇っ子

 蛇っ子   -少年少女恐怖館ノ内-

 

 蛇はかしこい動物だから、よく人間に化けて学校の授業を聞きに来るんだよ、と言われていた。お婆ちゃんがこどもの頃はこういう話を信じていた子はけっこういたらしい。

「今でも人間に化ける蛇がいるのかなあ」

 千秋がつぶやいた。

「ははは、それはおばあちゃんが育った山奥の話だよ……。このごろは、蛇が人間に化けたという話は、とんと聞かんな」

 もし、蛇が人間に化けたらどんな顔になるかな、と千秋は思った。顔よりもスタイルのほうが想像できた。きっとスラリとして、かっこいいんだろうな、と思う。首も細くて・・・、それから口は大きくて、目は細いかな。さらに、目の奥から独特の光りを出すかな、とか想像してしまう。そんな子いたかな、順番に思い出そうとしていた。

 

 由香ちゃんという子は不思議な魅力をもった子だった。二年生になって転校してきた。運動がよくできて、いつも動きまわっている。そのせいでのどが乾くのか、いつも水を飲んでいる。水道の蛇口から直接飲んで、ここちよさそうに舌をだしてぺろっと口をぬぐう。切れ長の目がいっそう細くなって、かわいらしい。いかにもうれしそうな表情だ。しかし、この水を飲むところを人に見られるのは好きでないらしい。この前、赤い舌を出して、唇をなめているところに出くわしたら、じろっと睨まれた。一瞬背筋が寒くなった。こんな体験は初めてだった。人に睨まれただけで、こんな感じになるものだろうか、としばらくは頭の中から消えなかった。

 でも、由香ちゃんはかわいい。いつも、見ていたい。いつも見ていると、それだけで、こちらまで楽しくなる。そんな気持ちは、実は私だけでなく、私の友達の何人かは、同じように思っていた。みんな、かわいい、と言うのだ。

 そんな由香ちゃんが、突然病気になった。昨日から休みだした。今日も、来ていない。何だか、心の中にぽっかり穴が開いて、周りの世界が、ぼんやりと映っているようだった。と、同時に緊張から解放されたような、安らぎに似た気持ちにもなった。この気持ちは自分でも説明がつかなった

2024年12月16日月曜日

因島・ふるさとの歴史を学ぶ会資料 第110回

 2025年6月17日火曜日  テキスト 「風のささやき」


次回 7月テキスト 「空手還郷」

 


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因島・ふるさとの歴史を学ぶ会 








因島・ふるさとの歴史を学ぶ会資料 第108回

 2025年4月15日火曜日。

今回 テキスト 『末広講の夢』。

次回 第109回 2025年5月20日火曜日

  『ふるさとアルバム重井』(1000円)



第II期として印刷資料は作らず既刊の冊子をテキストにするスタイルの、テキスト2巡目に入る。


重井町文化財協会旅行

  (会員外の方は+1000円)





重井村四国整備事業の特徴。

 既にある札所の番号名前を重視。遍路順に重きを置かなかったので、複雑な遍路順となった。

 これに対して弓削の島四国がある。番号順に番号寺名を書いた脊柱を置いてある。あくまでも番号順においているため、お堂の中の本尊に書かれた寺番、本蔵と一致しない。さっとお参りするだけならこれで良いが、本尊などを確認する人には違和感があるだろう。

 どちらが良かったのか、今でも悩む。弓削の方が現代的ではあるが・・。マニア向きではない。




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ふるさとの歴史を学ぶ会 








因島・ふるさとの歴史を学ぶ会資料 第107回

 2025年3月18日火曜日 9:10〜11:10  重井公民館

テキスト 『ふるさとの山 白滝山』(1000円)







記録

第106回定例会

20250218 重井公民館。14名。テキスト『波濤万里』

20250218 因島文学散歩 因島図書館臨時休館のため中止。



次回

20250415 9:10〜11:10  重井公民館

107回 テキスト 『末広講の夢』1000円


 


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ふるさとの歴史を学ぶ会