2021年6月21日月曜日

街角古文書


 いろんなところに古い文字があります。いずれも古文書学習の教材です。

歌川広重


お中元にいただいたお菓子の箱(金属製)に見事な絵が印刷されていました。東京国立博物館 月に雁 歌川広重筆 と横に書いています。あの、北斎、広重の広重です。私たちの時代は安藤広重と覚えたものですが、今は歌川広重と表記するそうです。安藤は本名、広重は雅号で一緒に並べるとおかしいのだそうです。へぇーえ? 夏目漱石だって森鴎外だって、本名の姓+雅号だったと思うのですが・・。それはさておき、師匠が歌川豊広で安藤重右衛門が本名で、師匠が自分の広に本名の重を足して歌川広重と名付けてくれたのだそうです。そして作品は歌川広重名で発表したということで、今は歌川広重と表記するそうです。世界的な画家の名前をそんなに変えていいものでしょうか??

左上に文字があります。「讃」と言います。

 こむ奈 夜可 又も 有うか 月尓雁 で変体仮名を現代表記の仮名にすると。

 こむな 夜か 又も 有うか 月に雁 で

 こんな夜がまたもあろうか月に雁 


落款は読めません。右下は馬と鹿の絵で馬鹿という意味でしょうか?

その上には廣重筆と書いてあります。

雁は家族で飛んでいるのでしょう。先頭が父で残り2羽が子供でしょうか? それとも3番目が母親で、遅れたもう1羽を安じて振り返っているのでしょうか。

月を背景に雁が飛んでいるのを見るような夜に二度とめぐり合うことはないだろう、というのが本心でしょう。



同じく広重の菊花雉子です。左上の讃は、

菊の香や ふく免る露能 ち類度尓

菊の香や ふくめる露の ちる度に

菊の香や ふくめる露の 散るたびに

ということです。 



同じく広重の牡丹と孔雀です。



牡丹花 富貴者 也 幽斎

牡丹花 富貴のものなり

牡丹の花は 富貴のものなり

牡丹は富貴の花なり、と言われます。


廣重筆


次は佐久間象山の作品です。


斯花有性気愧与凡 
葩君半末君子佩幽 
谷守意芳     
    象山印    
五言絶句ようなので五文字ずつ並べてみましょう。
斯花有性気
 愧与凡葩君 
 半末君子佩 
     幽谷守意芳     
    象山印





               造化密移春復秋此心
               常ゟ故人遊前身應是華
               陽光萬巻持壽不下楼
                  象山

これは七言絶句になっているようなので、七言ずつ書いてみましょう。
               造化密移春復秋
               此心常ゟ故人遊
               前身應是華陽光
               萬巻持壽不下楼
                    象山
読んでみましょう。
               造化密(ひそ)かに移る春また秋
               此の心常より故人遊ぶ
               前身これに応じて華陽光る
               万巻持つも寿(とし)楼を下らず


島崎藤村の「千曲川旅情の歌」


小諸懐古園へ行った時、詩碑の拓本を買ってきました。千円だったと思います。今も売っているでしょう。封筒へ入れておくのも勿体無いので、西文明堂へ持って行って額装にしてもらいました。4万円でした。物は大きいです。

千曲川旅情之うた
小諸奈留古城之の本と里 雲白く遊子
か奈しむ みど里奈す者こへ者もえす
王可くさも志く尓
よし無し 志ろ可ね之
不すま之お可へ 日尓とけてあは雪流る
あたゝ可き光者あれと 乃尓み津る香里
志らす あさく乃み春者可すみて むき之色
僅可尓靑し 旅人乃のむれ者以く津可 畠中之
道越以曽急きぬ 暮れゆけ者あさまも見えす
うた可奈し佐久の草笛 千曲川以さよ不
波之 岸近きやと尓乃本里津 尓こ里酒
尓これる飲みて 草まくら志者し奈くさむ

              島崎藤村

 信濃路之おもひて尓旧詩之
 一つ越志るす印


今風では次のように書かれる。


千曲川旅情の歌

小諸なる古城のほとり 
雲白く遊子
(いうし)悲しむ
緑なす繁蔞
(はこべ)は萌えず
若草も藉くによしなし
しろがねの衾
(ふすま)の岡邊
日に溶けて淡雪流る

あたゝかき光はあれど
野に滿つる香
(かをり)も知らず
淺くのみ春は霞みて
麥の色わづかに靑し
旅人の群はいくつか
畠中の道を急ぎぬ

暮れ行けば淺間も見えず
歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の
岸近き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飲みて
草枕しばし慰む 


日本語の詩は韻が無いので、外国の詩に比べるとちょっと詩という概念が違うのでは無いのかと思う。
そんな中で、詩らしい詩だ。ほとんどの行にカ行が入っているのが詩らしい韻律をなして5・7音の繰り返しの単調さを救う。
よく言われるようい、朝から夜へと時間が経過する。その時間の流れに乗って景色が展開し、それに呼応して、心がすなわち青春の旅情が深まっていく。
濁り酒濁れる飲みて、というのは土の沈んだ水をかき混ぜると、水が濁って視界が悪くるなることを連想させる。暮れ行けば淺間も見えず、の視界がさらに悪くなって、時間がさらに経過したことを暗示させる。


熊沢蕃山


学問之道無他?  其放心而已
学問之道無他 求其放心而已だったら1行目の下は求にならないといけないのですが。