霜月
2005年11月1日火曜日
早くも霜月である。新しい日を上に書いていくのは,後で読むと読みにくいので,やはり下へ降りていくことにする。
朝夕がすっかり寒くなって晩秋の趣である。野山の黄葉は少し早いが,瀬戸内沿いの山には櫨の木が燃えるように赤い。おちこちに黄色になった葉もみられる。連日朝夕にストーブに火の入らない日はない。暑い夏から寒い冬へ季節は一直線に進む。快適な秋が短いのがうらめしい。
2005年11月2日火曜日
やっと源氏物語を終わった。こういう複雑な物語は年をとってから読むのは大変だろうと思って,意を決して最後までこぎつけた訳である。とは言っても,夢の浮橋は数日前に終わっていたのだが,間が少し抜けていたので,そこを読んで,終わったという次第。源氏の本文はいろいろなテキストがあるのだが,いずれも難解なので,現代語訳にたよることにした。しかし,それでも複雑怪奇,主語が誰やら分からないのだから何度も挫折。いろいろな逕庭を経てやっと辿りついた。結局,村山リウさんの三巻本でざっと粗筋を読み,次に舟橋聖一さんの現代語訳を,新古典文学大系の粗筋と系図を見ながら読んで,宇治十帖は舟橋さんのには無いので,角川文庫の与謝野晶子訳で読んで,終わったと思っていたら,舟橋さんのは,幻で終わり,匂宮,紅梅,竹河を忘れていたことに気づいた次第。
2005年11月3日水曜日文化の日
朝から曇って,いよいよ秋色濃し。家の前の公園の桜が赤く染まって,日に日に落葉していく。隣のポプラとカイヅカイブキは元気がいい。天に向かってせり出している。
庭の南天が赤い実をつけている。こむらさきは紫色の実でいよいよ鮮やかだ。池のメダカは水温が下がったせいか,食欲がない。今年は夏にあまり餌をやらなかったら,痩せて発育不全になった。からだのうしろのほうが細くてオタマジャクシのようになったのがいたので,これでは冬を越すのに大変だろうと,一日二食にしたが時既に遅し。
「貯蓄なし」世帯が過去最高の2割強になったという報道がネットに載っている。金融広報中央委員会が発表した「家計の金融資産に関する世論調査」で、2人以上の世帯で、「貯蓄を保有していない」世帯の割合が前年より0・7ポイント高い22・8%で、1963年の調査開始から過去最高となったというものである。このところ我が国で経済格差が広がっているという話しをよく聞くが,このニュースもそのひとつの現れに違いない。現代日本には階級はないが階層はある,というが,厳密には皇族を除いての話しである。そして無階級の国民層に浸透する階層意識というのは,平和が長く続くほど強まり顕著になるものらしい。それはともあれ,我が国の戦後の安定した住みやすい社会というのが,低い犯罪の発生率と希薄な階層意識すなわち平等感の謳歌にあったことは事実であろう。それが,長い,といってもわずか60年だが,無戦争状態の中で,高度経済成長,バブル,バブル崩壊の時代を経て,低経済成長社会の中で,所得格差が広がり,上流中流下流という言葉が流行り,階層間格差が広がりつつあるというのが,最近の潮流である。
2005年11月12日土曜日
雨も止み,東の空から陽が登りはじめている。ツワブキの黄色い花が雨に濡れてなまめかしい。葉は嫌いで,刈っていくのだが,秋枯れの庭に原色の黄色はうれしい。またまた少し空いた。何もしていなかったわけではないのだが,少し別のことに集中していて,こちらは意図的に疎かにしていた次第。
最近は血圧を下げているためか,起きるのが5時台になってしまった。寒さもあるが・・。里見八犬伝はいろいろなリライト版で,読んだが,原典のほうは,岩波文庫を買って,あまりすすんでいない。源氏が終わったので,次はこちらにしようと思っていたら,新春に5時間ドラムになるということを知った。楽しそうである。期待はしないが,見てもいいと思っている。テレビドラマと言えば,山内一豊と,風林火山であるが,司馬さんの「高名が辻」も,井上靖さんの「風林火山」も小説としては一級の作品でそれぞれ面白い。特に「風林火山」は,誰が書いてもそこそこに面白くなる武田信玄と上杉謙信の決戦の話しの中に架空の軍師山本勘助というこれまた特異な人物が主役となるのだから,申し分ない。三船敏郎,佐久間良子主演の映画もある。こちらをもう一度みてみたいものだ。テレビのほうは,見る予定は,今のところない。
岩波文庫版八犬伝はまだ一冊目で,第十三回が終わった。「(中略)その父なくてあやしくも,宿れる胤をひらかずば,おのが惑ひも,人々の,疑ひも又いつか解くべき。これ見た給へ。』と肱ちかなる,護身刀を引抜きて・・・・」腹を刺すと白気が閃いて水晶の数珠を包んで空中高く登り,数珠がちぎれて落ちたあと「空に遺れる八つの珠は,燦然として光明をはなち,飛遶り入紊れて,赫奕たる光景は,流るる星に異ならず。」と,有名な八犬士出現の発端で十三回は終わる。
2005年11月25日金曜日
今日は私にとっては特別な日である。まず,夕凪亭竣工一周年である。さまよえるオランダ人ではないが,空いた空間を求めてあちこち彷徨してきたが,本陣を昨年こちらへ移した。「夕凪亭」という扁額を掲げ,書棚となりそうな壁面は,すべて書棚にして,さらに隣の廊下にも揃えて,方々に散らばっていた本を集めた。とはいえ,すべてが集まったわけではなく,当面関心のあるものを集めたところだ。あと200年生きても退屈しないだけの量はある。そのうち昔読んだ本のことはきれいに忘れてしまうから,また新たな気持ちで読めばいいので,何年生きても,飽きることはない。自分でとりつけたエアコンも順調で,猛暑の一年目も無事クリアした。思った以上によく効く。これも自分でつけたのだが,天井扇は風呂上がりにつける程度でほとんど使わなかった。
さて,本日は三島さん命日でもある。昭和45年,1970年だから,もう35年である。今年は,二回目の三島由紀夫全集も完結したし,「春の雪」も映画化されたし,良い年であった。小生も6月18日に広島で三輪明宏さん主演・演出の「黒蜥蜴」を見ることができたし,「春の雪」は封切り日の10月29日に行くことができた。また,新しい全集のCDでは多くの肉声を聞くことができた。心に残る一年であった。
来年から,劇団四季で「鹿鳴館」や「サド侯爵夫人」もやるそうである。淺利さんには,長生きをされて是非多数手がけてもらいたいものである。
少し前から,赤と白のサザンカが咲き始めた。ツワブキはまだ頑張っている。南天は紅葉した。木蓮は落葉し,ビロードの芽をつけている。去年も今頃咲いた。春と秋の二回も咲く変な木蓮である。
新日本古典文学大系の「古事談 続古事談」と「総目録」が届いた。発行日は11月18日だが,本日届いて,百巻と別巻五巻が完結した。今後このような百巻もあるような全集を買うこともあるまいから,これはこれで記念すべきことだと思う。私にとっては今日が完結の日である。うれしく思う。1989年1月から,16年ということである。岡山県から広島県へ戻ってきた翌年である。また,長男が生まれた翌年でもある。16年の間に子どもは成長し,こちらは年をとる。あの頃の若さはもうない。こんな本まで集めるようになったのは,やはり三島さんの影響である。だから,それが今日完結し,旧版の三島由紀夫全集の黒い函の下に,揃った新体系本の白い函が並んでいるのを眺めながら来し方をふり返ってみると感慨深いものがある。
2005年11月30日水曜日
今日も寒い。石油ストーブを抱くようにして暖を取る。霜月11月も,今日で終わりである。霜で上杉謙信の詩を思い出したので,載せておこう。
九月十三夜陣中作 上杉謙信
霜は軍営に満ち秋気清し
数行の過雁月三更
越山併せ得たり能州の景
遮莫(さもあらばあれ)家郷の遠征を憶う
詩人謙信も,信玄などと争わず,治世と学問に励んでおれればよかったのであろうが,そうは行かないのが人生である。忙中閑有りという。閑は忙中にこそ見つけなければならぬ,というのが師走を前にしての述懐。「鹿鳴館」はあっという間に売り切れたとのことで,公演延長も発表された。当分見れそうにないが,「鹿鳴館」の舞台公演は一度テレビで放映されたのをを観たことがある。残念ながら録画してないが,NHKには保存されていることと思う。また観る機会があるだろう。