総覧194 恋し岩。(陰陽石の間違い)
これはよく出来た創作民話である。「恋し」という言葉が使われる歴史を調べれば、いつの時代にアレンジされたものかわかるであろう。観音堂の御本尊の真裏に置かれていることから考えて、この山の古くからの信仰の一つであったに違いない。古いパンフレットに本堂前の手水鉢を陰陽石と書いてあったが、隣の手水鉢か、それとも両方が陰石だとすると、陽石はどこにあるかということになる。その一つの候補がこの「恋し岩」と呼ばれている岩だとすると、確かにこれに触ると恋が成就するという話が、全く根拠のないことではない。ただし、それは男性ではない。陽石だから、女性が、としなければならない。そして、それにまつわる話を創作したとしたら、この話は傑作である。あくまで民話であって歴史的事実かは保証できない。地元に相撲取りがいたという話は聞かない。おそらくそういう家はないだろう。また、この山の観音堂は(建物は新しいだろうが)相撲の巡業が来るような時代よりもはるかに古いから、この場所にあることは不自然だろう。さらにまた、この岩とそっくりの岩肌をもった露頭が山門下の石垣の前に、最近の工事の結果現れている。同じ種類の岩だということは素人にもわかるだろう。だから、海岸から持ってこなくても、この近くにある岩だとわかる。これらのことから考えると、この石は子授けの信仰の岩だと考えた方がよい。それに呼応するように、この下にある裏参道の摩崖仏は塩釜大神であるから、子授けにご利益があると言われている。