2019年2月28日木曜日

夕凪亭閑話 2008年10月 octobre

2008年10月1日。木曜日。晴れ。旧暦9.4. きのと い 四緑 赤口
 いつの間にか,ではなく,昨日から10月になっております。いつもの秋のように,秋晴れのすがすがしい天気になりました。夕方には,南西の空に,美しい三日月を久しぶりに見ました。南の空高くあがっているのが,木星でしょうね。
 福田恆存訳「ハムレット」(新潮文庫)。何度読んでも,凄い。台詞の表現の見事さ。比喩の素晴らしさ。巧みな箴言。考えてみると,世に溢れるハムレット人物論ほど,ストーリーは複雑ではなく,実にあっさりと流れていく。何が複雑な印象を与えるのか。ハムレットの人物か。単純に解釈することもできる。複雑に解釈することもできる。
 
 
2008年10月6日。月曜日。晴れ。旧暦9.8. つちのと う 九紫 仏滅
 昨日は一日中雨でしたが,今日はよく晴れて秋空が広がっておりました。日中はやや,暑いようでした。27℃くらいあったのでしょうか。夕方,黒い雲が出ましたが,雨とは関係ないでしょう。 
 チェーホフ著,原卓也訳「可愛い女」(集英社・世界文学全集25)は,愛すべき女性の人物造形がすばらしい。「犬を連れた女」にも通じる,地味な女性です。どこといって悪くないのに,夫は突如亡くなります。二度目の夫も同様です。寂しがり屋の彼女は誰かを愛さないではいられません。(好色とかいうのではなく)。そんなところが,こまかく描かれた傑作です。
 
 
2008年10月7日。火曜日。曇り。旧暦9.9. かのえ たつ 八白 大安
 朝,散歩して山のほうへ行きましたら,カラタチの黄色い実がなっていました。畑の垣として植えられているもので,棘だらけの木です。
 田中菊雄「あなたはこの自助努力を怠っていないか!」(三笠書房)は,いろいろな人生論の本の紹介などがあって楽しい本です。
 
2008年10月10日。金曜日。晴れ。夜小雨。旧暦9.12. みずのと ひつじ 五黄 友引
 秋晴れが続いていたのに昼前から曇り,夜,少しだけ小雨。
 ノーベル物理学賞,化学賞に海外在住の日本人が含まれ,明るいムードに湧いている。結構なことである。ついでに,ノーベル文学賞にペドロ下瀬氏になればいいと思っていたが,残念ながらこちらはル・クレジオ氏に決まった。
 福田恆存訳「ジュリアス・シーザー」(新潮社・シェイクスピア全集8
 世界史上最大の英雄は誰かと問われれば,アレクサンダー大王ではなく,始皇帝でもなく,チンギス・ハーンでもなく,ナポレオンでもなく,文句無くユリウス・カエサル,すなわちジュリアス・シーザーと答える。そして長いローマの歴史の中でのクライマックスは,カエサルが暗殺されたときであろう。それを,これまた世界の文豪の十指に入るシェイクスピアが書いたのだから,面白くないはずがない。実に素晴らしい歴史劇だ。
 暗殺前,暗殺日,暗殺,暗殺後と時間の進行にあわせてドラマは進む。非常にわかりやすい。では,本編の主人公は誰かというと,なかなか難しい。シーザーではない。ほんのわずか出て,すぐ殺される。ならば,追悼演説をして政治の流れを変えたアントニーかということになろう。昔見た仲代さんの舞台公演でも,仲代さんはアントニー役を演じ,追悼演説にクライマックスがあった。とはいえ,アントニーの登壇は少ない。始めから終わりまで出てくるのブルータスである。そしてテーマもまた,シーザーを最も愛した男がなぜ殺戮に及んだのかということになるのだから,ブルータスだって十分に主役を主張する権利はある。ということで,このドラマはハムレットがハムレットの一人舞台だったのと異なり,三人も主役がいるという大変豪華なドラマになっているのだ。
 さて一つだけ異を唱えれば,シーザーよりもさらにローマを愛したというブルータスの動機はいかにも文学的解釈で,面白いのだが違和感をもつ読者も多いことだろう。やはり,ブルータスの権力欲と考えたほうが理解しやすい。
ところで,ここに描かれるアントニーは,シーザーにも劣らぬ政治的な天才である。にもかかわらず,後にクレオパトラの色香に迷って自滅する。それほどクレオパトラの美貌は強い磁場を引き起こしていたのだろうか。ならば,パスカルがクレオパトラの美貌が世界史を変えたと言うのは,決して誇張ではなかろう。
 
2008年10月11日。土曜日。晴れ。旧暦9.13. きのえ さる 四緑 先負 十三夜
 秋晴れのよいお天気。スーパーで蜜柑を買ってきた。失敗。ワックスをかけてあって皮が浮いている。できるだけワックスをかけているのは買わないようにしているのだが,よく確認しなかったので帰ってから気づいた次第。色艶と,皮の柔らかさをよく確認しなければ。総じて,JAと書いてある函のものはワックスがかかっているようだ。JAと書いてないのは,地方の問屋さんが集めて出荷したものか,ワックスがかかってないのが多いようだ。それに産地の道端で売っているのは,当然といえば当然であるがワックスはかかってなくて,おいしい。これはあまり転がしたりしてないからだろう。大きさで選別するのに穴の開いた容器の上を転がし,機械でワックスなどかけていたら,まずくなるのは当然だ。なぜ,あんな馬鹿なことをするのだろうか。エネルギーの無駄だし,消費者を馬鹿にしているとしか思えない。大きな組織であるJAから率先して止めるべきであろう。
 十三夜である。美しい月が,日暮れとともに昇ってくる。夕日も美しかったが。
 古いDVDで「ハムレット」(1948年,イギリス)を見た。ハムレット(監督も):ローレンス・オリヴィエ,オフィーリア:ジーン・シモンズ。映画としてはよくできている。ただ,ハムレットは,もっと若い人に演じてもらいたいものだ。難しいところだろうが。
 
 
2008年10月12日。日曜日。晴れ。旧暦9.14. きのと とり 三碧 仏滅
 朝も夜も,星を見ながら散歩をしました。空気が澄んでとてもきれいな星空です。夕方満月前の月と木星と,そして西のほうにあるのが土星でしょうか。見事な秋の夕暮れでした。
 DVDで「暗くなるまで待ってWait Until Dark」(1967年,アメリカ)を見ました。息もつかせぬサスペンスです。原作は読んでおりませんが,これは映画だからこそ面白いのでしょう。ヘップバーンの演技あってのものでしょうけど。小説に書くほうが難しいのではないでしょうか。
 
2008年10月13日。月曜日。晴れ。旧暦9.15. ひのえ いぬ 二黒 大安 体育の日
 今日は体育の日でお休みです。秋晴れの気持ちのよい日です。今日は満月で,多少雲が出ていますが,きれいに見えます。
 DVDで「誰がために鐘は鳴るFor Whom the Bell Tolls」(1943年,アメリカ)を見ました。ゲイリー・クーパーとイングリッド・バーグマン共演の大作です。なにしろ原作は長く,最後になっても主人公の独白は長々と続くのですが,映画では,速い展開で最後の別れのシーンを盛り上げております。タイトルはAnd therefore never send to know for whom the bell tolls; It tolls for thee. というJohn Donne の詩の一節からとられております。汝自身の為に弔鐘は鳴るということでしょうか。
 
 
2008年10月17日。金曜日。晴れ。旧暦9.19. かのえ とら 七赤 先負
 ちょっとご無沙汰している間に,一週間が過ぎてしまった。この間に,朝夕三〇分ずつ毎日歩き,次第に小さくなっていく(あまりにもわずかだが)月を朝夕眺めておりました。そして,「ドクトルジバゴ」をDVDで見たり,しておりました。気候のほうは,すっかり秋の気候で落ち着いて,最高気温25℃,最低気温15℃くらいで推移していたようであります。しかし日暮れはだんだんと早くなり,冬がいつきてもおかしくはない,という感じです。世界的な株価の暴落は,どこか対岸の火事のような感じで,まだその熱気が届きません。
 大山敏子訳「じゃじゃ馬ならし」(旺文社文庫)。こちらは昭和49年7月発行の重版ですが,紙は初期のものほど上質ではなく,新潮文庫程度といったところでしょうか。この作品は二重構造になっていて,タイトルであり主題でもある,じゃじゃ馬をならしていくというのは,長女のキャサリーナを,ペトルーチオウが求婚し,おとなしい妻に仕立て上げるという,最も喜劇的な話題が劇中劇として展開されます。それに対して,その劇を見ているのが,序幕です。ここでは,鋳掛け屋のスライが酔っぱらっているうちに領主に仕立てられ,からかわれるという,これまたおもしろい話であるが,途中,これらの見物人の声が少し出てくるだけで,あとは一切出てこないという,変な構造です。ですから,これは完成稿ではなく,種々のバリエーションのうちの一つではないかと思います。このスライの成り代わりというのは,本筋のほうの,妹ビアンカの求婚者たちが,互いに主従入れ替わるというのを暗示しているところが暗示的で,スライがやはり自分は入れ替わっているのだと,気づく話に展開していってもいいわけですから,これは序幕に対応して,スライの物語が,あったのが欠落したと考えたほうがいいようです。
 さて,本題のじゃじゃ馬ならしは,まったく見事というほかなく(こちらの話も,もう少し伸ばしてもよかった,という印象を受けます),おもしろいだけでなく,人間心理の洞察には恐れ入る次第である。
 
 
2008年10月18日。土曜日。晴れ。旧暦9.20. かのと う 六白 仏滅
 朝,歩くと,日に日に公園の桜が色づいていくのがわかります。桜は,葉が緑のうちから,黄葉したものからどんどん落ちていきます。この頃になると,残っている葉が赤くなってきます。こうなると,あっというまに,落ちてしまうでしょう。日中は戸外では暑いほどの天気でしたが,やはり,秋ですね。
 DVDで「クォ・ヴァディス」を見た。久しぶりであるが,やはりこのような大作は面白い。1951年のアメリカ映画。あの時代にこれだけのカラー映画を作るのだから,アメリカという国は凄いですね。
 
2008年10月21日。火曜日。晴れ。旧暦9.23. きのえ うま 三碧 先勝 さんりんぼう
 日中は暑いような秋の日が続いている。しかし,朝夕は,気温が下がり,日々秋が深まっていっている。中国山地や四国山地の高原では,もう秋も終わりに近づいて冬も間近という状況ではなかろうか。
 石川文洋「四国八十八カ所 -わたしの遍路旅」(岩波新書)を読んだ。写真家だということで,かつてお参りしたお寺や周辺の写真集だと思って買ったのだが,残念ながら,さにあらず。しかし。ベトナム戦争や,カンボジア戦争を取材した経験からのさまざまな思いが記されており,数々の美しい写真とともに,胸を打たれた。特に戦場で若い命を落とされた写真家たちの思いでは,この本に格別の重みを与えている。かつて,岡村昭彦さんの「南ベトナム戦争従軍記」というのを高校時代に読んだことがあるが,改めて命がけの取材であることを知った。
 読みながら,四国の山河が懐かしく思い出された。3回目の遍路もしてみたいものだが,当分はその予定が入らない。しばらくはペーパー遍路ということで,その思いを維持しよう。 
 
2008年10月22日。水曜日。曇り夜雨。旧暦9.24. きのと ひつじ 二黒 友引
 朝から雲っていたが,夜になって雨が降り出した。これくらいの頻度で雨が降れば,空気も大地も適度に湿っていい。
 中野不二男「湯川秀樹の世界」(PHP新書)は,湯川博士に関する本の中でも異色のものである。特に中間子論誕生に至るドラマはこれまでに書かれていたものを超えているのではなかろうか。なかでも家庭における苦闘の跡が,スミ夫人の証言から組み立てられているところが圧巻である。また,ヨーロッパのソルベー会議に招かれ渡欧したものの,第二次世界大戦勃発で帰国を余儀なくされたとき,アメリカで下船し,実に積極的に大学や研究者を訪問しているところが見事に報告されており,若き日の湯川博士の行動力には驚いた。
 
2008年10月23日。木曜日。曇り時々雨。旧暦9.25. ひのえ さる 一白 先負 霜降
 夜になってまた雨が降っている。そのせいか寒いくらいだ。日中も,もう25℃を越えることはあるまい。奥のほうでは紅葉が進んでいるようです。
 福田恆存訳「マクベス」(新潮社・シェイクスピア全集13)。「マクベス」は「ハムレット」や「ロミオとジュリエット」ほどではないにしても,比較的好きな作品です。でも,カタルシスがあるわけではなく,悲しみを感じるわけでもありませんから,四大悲劇というのには疑問です。しかし,単純でわかりやすいということと,名台詞もほどよく配置されていて,よい作品だと思います。主人公の深みがあまりまくマイナーな印象もありますが,しかし,よく描かれております。小心者のマクベス。姦婦のマクベス夫人。マクベスは真の悪人にはなれない。そもそも魔女の予言をマクベスが夫人に漏らしたことが悲劇の発端となる。こういうことはマクベスの胸の内に留めておくべきことだったのだ。しかし,後半になって,行動は逆転する。男だから,女だから,ということであろうか。それに魔女の登場も,この作品をおもしろくしております。
 
2008年10月24日。金曜日。曇り。旧暦9.26. ひのと とり 九紫 仏滅 
 夜がだんだんと寒くなってきました。そろそろ暖房器具が必用のようですね。すでに準備はできているのですが,最近は使っておりません。
 朝永振一郎「物理学とは何だろうか 上」(岩波新書)。 これは何度読んでもいい本だと思います。現代物理学の最先端を学ぼうという人には,お呼びではありません。そうかと言って科学史に期待しても無駄でしょう。まさにタイトルどおり「何だろう」という探究の書であると,申し上げておきましょうか。前半はケプラー,ガリレオ,ニュートンという,占星術から物理学へという旅の追跡です。後半は,熱力学の成立です。トモナガイズムとでもいうべき,思考の流れにそって,理論の発展を跡づけてみせるところは,「量子力学Ⅰ」を思い出しました。こういう本が翻訳ではなく,日本語の原著として読めることに感謝すべきでしょうね。
 
2008年10月27日。月曜日。晴れ。旧暦9.29. かのえ ね 六白 先勝
 土曜日は秋晴れの良いお天気で,庭木の剪定をしていると汗ばむほどでした。日曜日は一転して雨模様。そして今日は,日中はよいお天気だったのですが,夜になって風が吹き出したので,夜の散歩はお休みです。
 DVDで「レベッカ」を見ました。小説もあるのですが,途中でやめておりましたので,意外な結末に驚きます。未見の方もおられると思いますので,その部分は書かないでおきましょう。レベッカというのは富豪の先妻の名前です。富豪は不釣り合いとも思われる普通の少女を恋して結婚し,豪邸に帰り・・・・,というのが大雑把な紹介です。結局,富豪と新妻が誤解を解き,いかにして愛し合うようになるか,というのが,もう一つの主題です。よくできた映画だと思います。
 
2008年10月28日。火曜日。晴れ。旧暦9.30. かのと うし 五黄 友引
 昨日ほどではありませんが,夜になるとかなり寒くなります。夜七時頃散歩したら,雲はいくつかあったものの,晴れていました。風は吹いてなくおだやかな気候でした。九時頃になると,足下が冷えてきました。18.8℃です。10月の終わりですからね,こんなもんでしょうか。
 高山岩男「文化類型学研究」(弘文堂,昭和16年)というのを読んでいたら,西洋では人間の前のものを客体として思考したのに対して,東洋では,そうではなくて人間が対象であったと書かれておりました。確かにその通りでしょう。論語なとは執拗に,人間について,すなわち自己についての言及ですから。かかるが故に,科学が西洋で生まれ発達したということです。なるほどと思いました。と,同時に実存主義への違和感がその辺にあるのではないかと思い,岩波の哲学思想辞典で実存主義のところを読み直してみました。ハイデッガーは,実存主義者ではないと言ったということですが,そのことの意味は大きいと思います。あくまでも哲学の対象として,「存在と時間」の現象学があるのですから,簡単に人間主義に還元されたら困るということでしょう。それに対して,サルトルは「実存主義はヒューマニズムである」というわけです。それでは,哲学的人生論かというと,どうもそれだけではないようなので,わからなくなります。 
 
2008年10月30日。木曜日。晴れ。旧暦10.2. みずのと う 三碧 大安
 朝夕が,また寒くなった。朝の通勤途中に暖房を入れたりして・・・。昔のように,いろんなことを並行してやるというのではなく,ひとつずつ片づけていたら,あっという間に10月が終わろうとしている。
 江戸川乱歩全集がある。全25巻で,昭和54年頃に講談社から出た。黒っぽい装幀の本で,函を全巻並べると横尾忠則氏の見事な絵が妖しい光を放つようになっている。その第2巻は,あの有名な「人間椅子」というタイトルだが,他にも短編が多数収められている。「疑惑」と「接吻」は,どこが推理小説? という感じで読んでいたのだが,最後になって苦心のトリックが明かされる。一応,推理小説ということだから,ネタをばらすことは控えたいが,やはり,「さすが乱歩」と,敬服致しました。ただただ,その執念とでもいう努力に頭が下がりました。
 
 
2008年10月31日。金曜日。曇り。旧暦10.3. きのえ たつ 二黒 赤口
 いまにも降りそうな空模様であったが,結局降らなかった。夜になっても雲が立ちこめて,かえって暖かい。今日で10月は終わり,明日から11月だ。いよいよ秋が深まっていく。そして今年も残りあと二月。こちらは年をとり,若い人たちは成長する。世の中も変わる。大きく変わっている分野と変わらないものがある。気がつかないうちに激しく変わっているのもあるだろう。とりわけ,インターネットの世界の発展の仕方は驚異的である。やがて,多くの分野で既成の形態にとってかわるだろう。