2015年11月21日土曜日

菅茶山



文化壬申
菅茶山先生
黄葉夕陽村舎詩
皇都書林汲古堂梓

刻黄葉夕陽村舎詩序
京師書肆




茶山の詩をその詩集(復刻版)の順に訓読します。




凡例(序文等も含む)   



 
復刻版p.23
黄葉夕陽村舎詩巻之一  こうよう せきようそんしゃ し まきのいち
備後 菅晋師禮卿  びんご かん ときのり れいけい      

[閑話子注]
「そんしゃ」を新日本古典文学大系本は「そんじゃ」と濁る。
高橋家より入りて菅波氏を継ぐ 、号茶山  名晋師トキノリ 字礼卿  復刻版付録年譜p.3
また、菅茶山とその世界Ⅲp.60 
                                                                                       
春日雑詩    かすがざっし  
 
朧朧山氣曙  ろうろうたるかな さんきの あけぼの
靄靄野烟滋  あいあいたるかな やえん しげる
濯濯門前柳  たくたくたるかな もんぜんのやなぎ 
郁郁園中梅  いくいくたるかな えんちゅうのうめ
林鳥求其友  りんちょう そのともを もとめ
喈喈在高枝  かいかいとして こうしにあり
児童喚其侶  じどう そのりょをよび
欣欣戯路岐  きんきんとして ろきに たわむれる
傷此単居客  これをいたむ たんきょのきゃく
幽懐将訴誰  かすかにおもう まさにたれかをうったえんとす
 
欄外注:魯堂日物皆得所己獨不然詩人之感非無以也  ろどう いわく ものみな ところをえ ひとつとしてぜんならず しじんのかん もってなきあらざるなり
 
[閑話子注]
門前柳 原文・柳の字は読みにくい。木偏に西、西の縦線が二本下に突き出ている。柳と読んでおく。
幽懐  幽情で静かな心持ちの意か。幽は平。
将訴誰  きっと誰かを訴えるだろう 推量の意 
魯堂 那波魯堂1727-1789 名は師曽 字は孝卿 通称主膳 号は魯堂・鐵硯道人 播磨姫路出身 聖護院門跡侍講、後に徳島藩授
 
其二  そのに
 
郊村一夜雨 こうそん いちやのあめ
更添柳梢緑 さらにそう やなぎのこずえ みどりなり
春色日以深 しゅんしょく ひをもって ふかく
和風日以煥 かぜはなごむ ひをもって あきらかなり
将欲賞芳辰 まさに ほうしんを めでんとほっし
使児輟誦讀 こに しょうどくを やめさしむ
東舎持嘉魚 とうじゃ かぎょを じし
西芳醁 せいりん ほうろくを たずさえる
相将上高原 ともに まさにこうげんに のぼらんとす
聊以縦遠目 いささかもって とおめにしたがう
 
[閑話子注]
日以煥 煥はカン あきらか 火の光が丸く四方に広がり輝くさま
賞芳辰  辰 ここでは時刻や日のこと。吉辰(吉日)、良辰などの語がある。
使児輟 輟はテツ やめる
擕は携の異体字 ケイ たずさえる
芳醁 醁は うまざけ


 
復刻版p.24
其三  そのさん
 
芳草生路傍  ほうそう ろぼうに しょうじ
梅花満村邊  ばいか そんぺんに みつ
遠田明水色  とおだ みずいろに あかるく
白鷺集復飜  しらさぎ つどいて また ひるがえる
入春才二旬  はるにいりて ざえを にじゅんし
韶華遍川原  しょうか かわはらに あまねし
瞻此景物佳  このけいぶつ よし と みて
忻我身世閒  わがみ よのかんを よろこぶ
作詩冩幽懐  しをつくり ゆうかいを うつし
飲酒解愁顔  さけをのめば しゅうがん とける
但有同心友  ただし どうしんの とも あるを
(時亦同心友  ときにまた どうしんの とも )
依依不可諼  いいとして わすれる べからず
 
欄外注:行間雌黄魯堂及六如所加  ぎょうかんのしおうはろどう およびろくじょのくわゆるところ。 
[閑話子注]
雌黄 シオウ シコウ 詩文の語句を改めること。雌黄は硫黄と砒素からなる黄色の化合物。昔、雌黄で詩文の誤りを直したことによる。
 
[閑話子注]
飜 ホン、パン ひるがえる
才 サイ ザイ 和訓かど ざえ  歳に代用して年齢をあらわす。「カニ?」の送りがなあり。判読せず。
韶華 春のあかるいけしき、日射し。韶気、韶光、韶景。
瞻 セン 見る
忻 キン よろこぶ
世閒 世ノ閒 とありセケンとは読まず
閒 カン ケン ガツ ゲチ
諼 ケン いつわる わすれる 16画
 
 
寄佐渡中山子幹   さどの なかやま しかん によせる
 
春風自東到  しゅんぷう ひがしより いたる
習習催鳴禽  しゅうしゅう めいきん をもよおす
萬物日已和  ばんぶつのひすでに なごやかなり 
(萬物日以暢) (ばんぶつ ひ もって のびやかなり)  欄外注:行間雌黄魯堂及六如所加 
傷我索居心  わがさくいの こころを いたむ
憶昔在京洛  おもう むかし けいらくにあり
與君結蘭金  きみと らんきんを むすび
開帙論疑義  ちつをひらいて ぎぎをろんじ
置酒話幽襟  さけをおき ゆうきんを はなす
同宿雲霧窟  どうしゅく うんむの くつ
共酔桃李陶  ともに とうりの すえに よう
一別十餘歳  いちべつ じゅうよさい
殊隔劇商参 ことに しょうさん より かくげきして
君若路傍蘭 きみ ろぼうのらんのごとし
移植於中林 ちゅうりんに いしょくす  
雖則適其性 すなわち そのせいに てきするといえども
芳香有誰尋 ほうこう たれかありて たずねん
 
[閑話子注]
催 サイ もよお・す もよお・し 13画
陶 トウ ヨウ すえ 11画
歳 サイ セイ とし 13画
劇 ゲキ はげ・しい 15画
 
寄紀州西山子絅 きしゅうのにしやましけいによす



  復刻版p.25
伊昔肆經史  いむかしけいしをみせ
舒巻與君倶  かんをのべるをきみとともにす
困倦相警勵  こまってうみあいけいれいし
忻戚共笑吁  きんせきともにわらう
時或出僑舎  ときにあるきょうしゃをいでて
緩歩洛城隅  らくじょうをかんぽすることぐうなり 
洛城佳麗地  らくじょうはかれいのちにして 
山水鬱且紆  さんすいはうつかつうたり  
討論信足樂  とうろんはしんじてたのしむにたり
吟眺聊可娯  ぎんじてながむればいささかたのしむべし
況此同盟侶  いわんやこのどうめいのりょは
襟懐自相符  きんかいおのずからあいふす
一旦告言歸  いったんげんかえるをつげ
各自即脩途  かくじしゅうとをそくし
君陟紀山阪  きみはきざんのさかにのぼり 
我乗播海艣  われはばんかいのろにのる
相去千餘里  あいさることせんより
音息隔年無  おんそくとしをへだつことなし
宿昔夢邂逅   やどでむかしかいこうをゆめみ
髣髴立中衢  ほうはつちゅうくにたつ
問余今何若  よにとういまなんぞもし
別來何太癯  わかれきたってなんぞふとりやせるか
欲言涙先下  いわんとほっしてなみださきにおちて
握手少踟蹰  てをにぎりすくなくちちゅうす
耳底聲猶在  みみのそこにこえなおありて
殘燈耿書梧  ざんとうしょごこうたり
起見東方白  おきてとうほうほうのしらむをみるも
故人何其盰  こじんなんぞそのめをかんせん  
欄外注:魯栄日述夢裡語処格特佳 ろえいいわくじゅつむりごしょかくとくによし
 
[閑話子注]
絅 ケイ 11画
西山子絅 紀伊の人 那波魯堂の弟子
肆 シ みせ ほしいまま 13画
舒 ジョ ショ の・べる 12画 
勵 レイ はげ・む はげ・ます 16画 励の異体字
忻 キン よろこ・ぶ 7画
吁 ウ ク 6画
僑 キョウ 14画
紆 ウ 9画  ウたり:気持ちがのびやかになれない 紆鬱ウウツ:怒りや愁いのために、心がむすぼれてはればれとしないとこと。また、山などが曲がって奥深いさま。
脩 シュウ おさ・める 11画
陟 ちょく のぼ・る
艣 ロ かい 18画
衢 ク ちまた 24画
癯 ク や・せる 23画
踟 チ 15画
蹰 チュウ ためら・う 19画
耿 コウ あき・らか 17画
盰 カン 8画
 
感事贈拙亝先生 ことにかんじてせっせいせんせいにおくる     (p.25)
亝 セイ、8画 拙亝、西山拙斎のことか。確定できず。
先生縁事将移居洛東門  せんせいことによりまさにきょをらくとうへうつさんとする
人為築行窩於上成村  もんじん
 
聯翩雲中ノ鶴  れんぺんうんちゅうのつる
聯 レン、つら・ねる、17画 翩 ヘン、ひるがえ・る、15画
載飛載和鳴 さいひさいわめい 
與君生並世 きみとせいよにならぶ
又辱同社盟 またどうしゃのめいをかたじけのうする
辱 ジョク ニン、はずかし・める はずかし・め かたじけな・い はじ
琢切勵頑魯 たくせつかたくなにろをはげむ 
勵は励の異体字
麗澤啓晦盲 れいたくかいもうをひらく
曲逢依叢麻 きょくほうそうまによる
不矯直其茎 たわめずそのくきをじかに
p.26
採葵古有箴 わさびをとればいにしえよりしんあり
付驥豈無情 きにふさばあにじょうなからんや
所恐踈慵性 おそれるところそようのせい
孤君訓告誠 きみのくんこくまことにこらを
其二
訓告申篤好 くんこくす あつくこのんで もうせと
趨舎存道風 すうしゃ どうふうにあり
君抱古人節 きみは こじんのせつを いだき
能為今世容 よくこのよにいれらんや