星の降る里
湖のまわりから生い茂った草は、生命感にあふれていた。勢いよく大地から伸びた緑色の葉は、みずみずしかった。湖は静かに水をたたえて、遠くの樹木を写していた。あちらこちらへとたわわに枝を張らせた木々も、大地へしっかりと根をおろしていた。太く曲がりくねった根は、互いに絡み合って先を争うかのように大地に向かって伸びていた。高い湿度のせいで、短期間に成長したもののほかは、長い年月をかけてここまで成長したものだった。
そして何よりも、湿った大地にはいろいろな生物が棲息し、かつてないにぎわいをみせていた。
オレンジ色の太陽が沈むと、あたりが暗くなった。流星が長くまたたいて、雨のように落下した。その光景を多くの生物が、岩と岩の間に掘った穴からじっと見つめていた。松に似た樹木の葉陰からも、あるいは湿地に生い茂る草の中からも、同じようにじっと見つめていた。
流星を見つめていると、ヒュルは、別の自分が心の中に棲んでいると思った。昼間の闘争心が、自分のものではないように思った。静寂と光。宇宙の大神秘の中に自分は死んでいた。生きながら死んでいた。
静かな夜の闇の中で繰り広げられる、光の乱舞を見ながら、動物たちの心にやさしさがしだいに培われていった。
「今夜もあんなに星が流れている……」
ヒュルが娘のメルンにやさしく言った。
「小さい頃からずっと流れ星を見ているわ。流れて、落ちて、どこに行くのかしら?」
メルンの大きな目が愛らしく輝いた。
灰色の砂山に横たわる、岩と岩のすき間に開けた穴から、北の空がパノラマのように見える。星は右上から左下に向かって、ゆるくカーブしながら流れた。途中で消えるものもあれば、途中から生じるものもあった。たいていは、うすい黄色に光ったが、なかにはオレンジ色や赤いのもあった。
「わあ、すごい!」
赤く輝く星が続けて流れた。一瞬、空が明るくなった。
「どこでもこんなに星は流れるの?」
今度は父も答えてくれるわ、と期待しながら、メルンは聞いた。メルンの大きな目は空を見つめていた。茶色い羽を少し父のほうに向けた。
「ああそうだよ。われわれの住むところはどこでも流れ星は見られるのさ。だから、われわれのことを昔から、星降る里の住民と言っているじゃないか」
ヒュルは黒く日焼けしてたくましい顔を、メルンのほうに向けながら言った。
メルンも顔を父のほうに向けた。
長くすらりとした鼻、輝く青い瞳。ヒュルは娘のメルンの横顔を、美しいと思った。
「もしも、もしもの話だけど、流れ星がなくなったら、どうなるの?」
「うーん、どうだろう。もっと夜が暗くなるだろうな。とくに今日のように月の出ていない夜は暗いだろうな」
「ああ、そうか。うん暗くなるね。そしたらやっぱり、流れ星のないところって住みにくいね。……あっー、眠くなっちゃった」
ヒュルが娘のほうを見たときには、メルンの目はうすく閉じられていた。もう寝たか、やはり子供だな、とヒュルは思った。
我々は立ったままで眠る。だから、会話をしていても、すぐにそのまま、眠ってしまうことがあった。目をつむれば、そこはもう夢の世界だった。
流れ星の作る薄明りの中で、となりのメルンを見ながらヒュルは思った。それにしてもよくここまで育ったな。緑の森を追われたとき、メルンはまだ二才だったから、あれからもう十三年になるのか。
こんなことを思うことができるのも、一族の人口も増し、少しばかり落ち着いたからである。今までのヒュルには、そんな余裕などなかった。