2025年1月23日木曜日

85 毛皮の静電気

 毛皮の静電気


 静電気の実験に使う毛皮

「キャアー」

 女生徒のかん高い声に、教室は一瞬にして、静寂の淵に沈んでしまった。

 近くの者はその生徒の周囲に原因を見付けようとし、遠くのほうの生徒は立ち上がって、その方角を確認するだけだった。

 次に起こったざわめきは、ひとつの理由を複数の者が発見したという経過を語っていた。

 騒ぎはますます大きくなった。

「先生! 毛皮に血がついてます」

 つかの間の静寂、そしてさきほどより大きな声。教師は走った。

 そんなことがあるものか……。毛皮はいつもと同じだ。教師は心の中で叫んでいた。

  信じられない。こんなに鮮やかな血痕をかつて見たことがあるだろうか。そこに行って教師は改めて驚いた。

 血は禍々しいものだ。しかし、今日の血の美しいこと。驚いたはずの自分がその鮮やかな血に見とれてしまうとは。

  毎年同じころに、物理の実験を行う。電気のはじめには、エボナイト棒を猫の毛皮で擦らせ、静電気の実験をする。まち針を軸にして作った回転台いつもと変わらない。

 静電気の実験をすると校舎の裏で動物の泣き声が聞こえる。

  こんな怖い噂が立つのは毎年のことではない。しかし、確実に何年おきかにその手のうわさ話は広がった。先生、あの声・・・と、今日もまた、一人の少女が叫んだ。一瞬、全員が耳を澄ませた。しかし、何も聞こえない。確かに変な声が・・・、先ほどの少女が、怖そうな顔をして言った。震えていた。

 気のせいに違いない。さあ、みんな、実験再開、再開。若やいだ雰囲気が、先ほどの静寂を押しやった。