ペリアンドロスの息子 ―ギリシア小説集ノ内―
昔、ギリシアのコリントスという小さな国を治めていた男にペリアンドロス王がいた。
ふとしたことから、ペリアンドロス王は王妃メリッサを殺してしまった。ペリアンドロス王は、当時の小国の王としてはよくあることだが、わがままで大層ひどいことをこれまでにもたくさんしていたから、王妃を殺したからといって、咎め立てする人はいなかった。 母の死から半年ばかりたった頃、二人の息子は母の実家へ行った。老後を寂しく送っている祖父母の無寥を慰めるためだ。兄のサピピュロンと弟のリュコプロンである。兄は一八歳、弟は一七歳である。二人とももう立派な大人であったが、なにしろ父のペリアンドロス王が壮健で、何でも一人でしていたので、子供たちが政治を手伝う余地はなかった。だから、こうして祖父母を訪問しても、慌てて帰る必要はまったくなかった。優しい祖父母の下でのんびり暮らすもいいが、それでも何かと不自由なもので、やはり住み慣れた我が家が懐かしい。そろそろお暇をと、兄弟ともに考えていたある夜、祖父が改まって二人を引き寄せ、語り始めた。
「お前たちは、お母さんの亡くなった本当の理由を知っているのか?」
「いいえ、ちっとも」と、無表情に答えたのは兄のサピピュロンである。
祖父はやや失望したように見えたが、気を取り直して、リュコプロンに向かって尋ねた。
「お前は?」
「・・・・」
リュコプロンは、俯いたまま何も答えない。そして、益々深く項垂れる。
「そうか。知っているのか」
「いいえ、何も知りません」
「それではなぜ顔を上げぬ」
「知るのが怖いからです」
「怖い? それなら尚更真実を知らねばならぬ」