お見舞いに来たのはだれ? -少年少女恐怖館之内-
「ユリね、今日はお休みだったよ。」
真由美は家に帰るとママに言った。
ユリと真由美は大の仲良しである。
ユリが熱を出して、学校を休んだのは水曜日のことだった。
ユリが学校に来ないのは、寂しい。真由美は夜になって電話をした。ユリのママが出て、明日も行けるかどうかわからない、と言った。真由美は、さみしくなったが、ユリによろしくと言って電話を切った。
次の日も、やはりユリは来なかった。
見舞いに行ってあげないといけないわ。もし、明日も休んだら、必ず行こうと思った。 夜、夕ご飯を食べながら、しまった、と思った。明日は金曜日でピアノの日だ。ピアノから帰ってからでは遅くなる。
「今日行くべきだったわ。明日はお見舞いに行けないわ。」
真由美が小さい声で言った。
「土曜日の午後にしたら。そのころならユリちゃんもきっと元気になっていて喜んでくれるわ。」
「うん、でも、もっと早く行けばよかった。何だか悪いことしたみたい。」
今日見舞いに行かなかったことを、後悔した。
金曜日になってもユリは来ていなかった。 真由美は、ピアノを休んでユリの見舞いに行きたくなった。また、昨日行っておけばよかった、と何度も思った。そんな気持ちでピアノのレッスンに行ったものだから、ずっと頭がボーッとしていた。ときどき、顔がポッポッしてくるように感じた。
夜、家に帰っても、やはりユリのことが気になった。
あくる朝、目が覚めたが、布団から出ることができなかった。
「まあ、すごい熱!」真由美の額に手を当てて、ママが言った。「これじゃ学校に行けないわ。今日はお休みしましょう。」
真由美は、返事をせずにうっすらと開けていた眼を閉じた。
真由美が眼を覚ましたのは昼過ぎだった。 昼ご飯を食べてから、ずっと布団の中でうとうととしていた。何度も眼をあけたり、つむいだりした。ユリの見舞いに行きたいと思うが、起きれないのだからどうしようもなかった。
日曜日も同じだった。しかし、午後になってやっと熱は下がった。
「明日は行けるわ。」
ママが言った。
月曜日の朝がやってきた。真由美は、やっと熱が下がって、学校へ行った。今日もユリは来ていなかった。
やはり、見舞いに行かずにはいられない。 学校から帰るとすぐにユリの見舞いに行った。ドアホンのボタンを押すと、ユリのママが出てきた。
「真由美ちゃん、この前はお見舞いありがとう。今日はゆっくりしていってね。さあ、どうぞ。」
真由美は、あれっ、と思った。何のことだかわからない。あいまいに答えた。
ユリのいる部屋に案内された。
ユリは真由美を見るとすぐに口を開いた。「土曜日はわざわざ来ていただいたのに、おかまいできなくてごめんなさいね。」
「ええっ?」
真由美には何のことだかわからない。やはり、先ほどのユリのママといい、何かおかしいと思った。
「どうしたの、土曜日のことよ。」
今度はユリのほうが変な顔をした。
「土曜日?」
真由美はますますわからなくなった。
「あら、真由ちゃんたらっ、土曜日のこと、もう忘れたの?」
真由美は不思議な気持ちになった。ユリの言っていることが少しはわかった。何か、かんちがいしているのだ。いや、あるいは……「もっと詳しく話して。土曜日にお見舞に来たときのことを詳しく話して!」
真由美は、思わず大きな声を出した。
「詳しくって? もう忘れたの。二時頃見舞いに来てくれたじゃないの。」
真由美には心あたりがない。
「ゆっくりしていただこうと思っていたのに、いつの間にかいなくなっていたわ。それに、何だか元気がなくって……、いつもの真由ちゃんらしくなかった。」
「それっ、違う! 私じゃないわ。」
「真由ちゃんじゃないって? ママも私も見たのに?」
「ええ、土曜日も、それから他の日も、見舞いには来てないわ。来よう来ようと思ってはいたの。それが、今日こそはと思っていた土曜日には熱が出て、起き上がれなかったの。だから、だからやっと今日見舞いに来れたのよ。」
「それじゃあ、土曜日にお見舞いに来たのはだれ?」
ユリの顔があおくなった。真由美はずっとユリの顔を見ていた。ユリも真由美の顔を見ていた。真由美は、足が震えているのが自分でもわかった。
二人とも口には出さなかったが、真由美の体を離れた霊魂が、見舞いに来たのだと思った。