犯罪と社会
柏原林造
十年ほど前、まだ私が高校生
のころにも、随分と若年者によ
る犯罪はあった。大学に入って
からは同じ大学生で自殺をした
人も何人かいたから、自殺も珍
しいことだとは思わなかった。
社会問題というより、社会現象
という印象の方が強かった。
さて、教師になって新聞を少
しばかり詳しく読んでいると、
何とも奇妙な世の中になったも
のだと思う。青少年の自殺や犯
罪が毎日報道されるような社会
は、正常な社会とは言い難い。
カミュが最後の哲学的問題だ
と言った自殺について、深入り
しようとは思わないが、自殺を
含めて-Commit (犯す) Suic-
ide と言うのだから社会に
おける犯罪は、次の二つの法則
に従うように思われる。
○犯罪は流行する
○エントロピー増大の法則
前者については、社会状況に
起因する類似の犯罪、あるいは
発想の素材ということを考えれ
ば当然のことである。
「エントロピー増大の法則」
というのは、熱力学第二法則の
別の表現で、エントロピーとは
状態の数、非秩序の度合の数の
ことだから、「でたらめさかげ
ん」「乱雑さ」などと言われ
る。
すなわち、乱雑さの度合が時
間の経過とともに大きくなると
いう法則である。この法則を社
会現象にまで拡張すれば、以下
のように考えられる。
元来、理性というものは秩序
を求めるものである。人類の歴
史もまたそういう方向で進んで
きた。しかし結果的には、情報
量ひとつをみてもわかるよう
に、エントロピーは増え続けて
いる。したがって、この法則は
社会現象においても成り立つ。
社会のある面で秩序が形成さ
れれば、他の面で乱雑さは増
す。そして、全体としてはエン
トロピーはいつも増えている。
すなわち、社会制度が確立すれ
ば、また組織が整備されれば、
かえって犯罪は増えるのであ
このように社会のメカニズム
が犯罪を必然ならしめるもので
あっても、我々は犯罪のない社
会を目指して努力せねばなら
ぬ。個人の進歩によってそれは
実現されるべきものである。す
なわち、教育の力によるもので
ある。
さて、テレビと漫画とチュー
インガムに汚染されたニューチ
ャイルドは、太平の世が生んだ
鬼子なのであろうか。いや、嫡
子と呼ぶべきだ。彼らこそ来た
るべき時代の、悲惨なトップラ
ンナーである。彼らからこそ、
我々は時代の警鐘を聞きとらね
ばならない。
ひょっとすると、十年後には
もう日本は「水と安全とが世界
一安い国」ではなくなっている
かもしれない。歴史に後もどり
はあり得ないのだから、奔馬の
ごとく走りぬけるしかないので
あろうか。
……「よその子も叱る運動」
というのが、既にある市では行
われているそうである。やは
り、期待せずにはいられない。
(県立邑久高等学校・教諭)
岡山県教育時報 54年4月号
(54年2月18日記)
岡山県教育時報、昭和54年4月号