Ⅲ 2. 教材開発
(3) 「ゴミのゆくへ」
① 単元のねらい
私たちは毎日の生活の中で、多種多様な商品を買い、使い、そして最終的に捨てている。 何気なく捨てたゴミが今日深刻な社会問題をもたらしていること、この問題の解決に向けてゴミの減量化や再利用・再資源化(リサイクル) に取り組む必要があること、こうした取り組みが資源やエネルギーの消費を抑え、地球環境の保全につながっていくこと、これ らを子どもに理解させることは重要である。
本単元は、ゴミの物質としての物理的・化学的特徴を実験的に確かめていく中で、ゴミ 問題を世界的な資源やエネルギーの問題として考察することをねらいとしている。
③展開
〔第1次〕家庭から1週間に出されるゴミの量
本授業のねらいは、家庭から出されるゴミの量や種類に気づかせることである。授業の数週間前に、1週間分のゴミの量や種類を記録しておくことを指示する。授業では数種類のゴミを持参させる。
○記録した結果を持ち寄り、班ごとに、ゴミの種類別の量を示したグラフを作成する。
○グラフについて話し合う。
○日本や世界のゴミの状況について説明する。 年を追ってゴミは増大している。
最近はどんな種類のゴミが増えているか。
〔第2次〕捨てられたゴミはどうなるのか (その1)
本授業のねらいは、ゴミが処理される段階で生じている問題を理解させることである。ゴミの焼却や埋め立てによる問題点を取り上げる。水道パイプ (ポリ塩化ビニル) カップ麺の容器 (ポリスチレン)、 有溶媒 (ジエチルエーテル)などを準備する。
○捨てられたゴミは、焼却、埋め立て、あるいは再資源・再利用化(リサイク
ル)されていることを確認する。
○焼却ゴミ: 水道パイプを燃やす (実験)。黒煙が立ちこめる。 ゴミの焼却に
よる問題点を話し合う ( 有毒ガスの発生、二酸化炭素濃度の上昇など)。
○埋め立てゴミ: カップ麺の容器を有機溶媒に溶かす (実験)。 よく溶ける。
ゴミの埋め立てによる問題点を話し合う (ポリスチレン製品を埋めることは、
空気を埋めていることに等しい)。
○日本や世界におけるゴミ処理の現状と問題点について説明する。
[第3次] 捨てられたゴミはどうなるのか (その2)
本授業のねらいは、ゴミをリサイクルする利点、またリサイクルを進める上
での技術的課題を理解させる。 いろいろな種類のプラスチック、 特定の商品に
付いているプラスチックの識別マークを準備する。
○リサイクルが比較的進んでいるゴミの種類を挙げる(新聞・雑誌、缶、ビン)。
リサイクルの利点について話し合う。 世界的な森林資源、 金属資源、 石油資
源の消費、エネルギー消費と深く結びついている。
○今後リサイクルを進めなければならないゴミは何なのかについて考える。 そ
れはプラスチックである。
○プラスチック: いろいろな種類のプラスチックを分別する (実験)。 水に浮
くものと沈むもの、 塩素を含むもの、 燃焼試験。 分別が困難なことがわかる。
ゴミを捨てる際にプラスチックの分別が必要なこと、 また容易に分別する上
で、 プラスチックの識別マークが必要なことがわかる。
〔第4次〕 どのような対応が求められるか
本授業のねらいは、ゴミ問題への対応として、ゴミの減量化やリサイクルの
必要性に気づかせることである。
○ゴミ問題は世界的な資源やエネルギーの問題と直結することを確認する。
○ゴミ問題への対応について、 自分の考えをまとめる。
○互いの意見を出し合う。 意見が分かれることに気づく。 社会の一員として最
低限求められる取り組みは何なのかについて考える。
3.学校における実践研究
(3) 「ゴミのゆくへ」
① 授業の概要
【広島大学附属福山中・高等学校(柏原林造先生) 対象:中学校第1、2学年】
柏原先生は 「ゴミのゆくへ」 の単元に全3時間を配当された。
まず、 第1次では、家庭から1週間に出されるゴミの量や種類についての学習がなされ
た。 生徒が1週間かけて調べてきた記録を持ち寄り、 4~5人の班ごとに、ゴミの種類別
の量をグラフにした。 ゴミの量の目安として、 40 リットルのポリ袋一杯を一袋とした。
また、ゴミの種類として、 福山市のゴミ収集の方法に則って、 燃えるゴミ (生ゴミ、紙屑、
布類)、 燃えないゴミ(プラスチック類)、資源ゴミ(ビン、 缶、金属類) に区分した。
活動の結果、 生徒は次のことに気づいた (「」内は生徒が記述した感想である)。
○ゴミ全体の量がかなり多いこと。 「一人分だと、 そんなに多いとは思わないけど、 みん
なのを合わせると、すごい量になる。」 「こんなにたくさんのゴミがあるのに、この量
は 20 / 380,000 (福山) なのだ・・・ すごい!」 (20は班員の家族の合計、 380,000 は福山
市のおよその人口である)
○燃えるゴミが一番多いが、 燃えないゴミもかなり多いこと。 班ごとにばらつきはあるも
のの、燃えるゴミは10~15 袋程度、 燃えないゴミは5~10袋程度であった。 しかし、
燃えないゴミのほうが多い班もあり、 生徒はこの結果に驚いていた。
○ゴミの種類が多いこと。 「埋め立てゴミは種類が多い。」 「埋め立てゴミの中にも、資源
ゴミにできるものがあると思う」 (埋め立てゴミとは、 燃えないゴミのこと)
以上の感想を踏まえて、 最近増えているゴミはとくにプラスチックであること、それは
燃えないゴミとして埋め立てられていること しかし再資源化が可能であることなどにつ
いて説明がなされた。
第2次では、ゴミの行き先がまず話題となり、燃えるゴミは当然焼却場で処分されてい
ること、燃えないゴミ(プラスチック類) は埋め立てられていることが確認された。 そし
て、プラスチックの学習へと授業は展開され、プラスチックの焼却や埋め立ての問題点に
ついて、実験をとおして考察した。
○実験1: プラスチックの焼却による問題
水道パイプを燃やす。 黒煙が立ちこめる。プラスチックを燃やすと、 有毒ガスが発生す
る場合があることがわかった。
○実験 2: プラスチックの埋め立てによる問題
カップ麺の容器(ポリスチレン)を有機溶媒 (ジエチルエーテル)に溶かす。よく溶け
る。ポリスチレン容器 (発砲スチロール)を埋め立てることは、ほとんど空気を埋めて
いるのに等しいことがわかった。 また、 再資源化できるプラスチックを埋めてしまうこ
とは、限りある石油資源の無駄であることが説明された。
第3次では、第2次での学習を踏まえて、プラスチックの再利用・再資源化(リサイク
ル)についての学習がなされた。まず導入として、フラワーポットや子供用の玩具ブロッ
クなど、使用済みプラスチックの再生品が紹介された。ペットボトルからペット製品へと
いうように、ある製品から同じ製品が再生されているわけではなく、材質上いろいろなも
のが混ざった低品位な製品しか再生できていないことが説明された。 そして、 その理由と
して、使用済みのプラスチックを用いた場合、材質の純度を高めるのが難しいことが指摘
された。したがって、プラスチックの区別が必要であることが強調された。そして、次の
生徒実験が行われた。
○実験 3 : プラスチックを区別する
いろいろな種類のプラスチックを用意する。 これらを3つの方法を用いて区別する (巻
末の資料3、並びに前頁の写真を参照のこと)。 実験の結果、プラスチックの区別が非
常に難しいことがわかった。 プラスチックの分別回収が必要なこと、プラスチックを容
易に分別するために識別マークの表示が必要なことが説明された。
最後に、ゴミのリサイクルは簡単ではないこと、それを進めるには一人ひとりが日々の
生活の中で取り組んでいかなければならないことが結論づけられた。
② 研究目標の達成度と今後の課題
○環境教育のテーマとしてゴミ問題は、これまで理科よりもむしろ社会科や家庭科におい
て度々取り扱われてきた。 ゴミ問題が社会の問題であり家庭の問題であるということは
強調されてきたのに対して、それが物質の科学と関わる問題でもあるということはあま
り指摘されず、ときにはほとんど見落とされてきたのである。 学校教育におけるこのよ
うな傾向を改善するには、ゴミ問題を理科的な視点から捉えることが必要であろう。 ゴ
ミの物質としての物理的・化学的特徴を学習していく中で、ゴミ問題が資源やエネルギ
一の消費・枯渇の問題と深く関わっていることを理解させることが求められる。 そうす
ることで、環境問題としてのゴミ問題を、いっそう幅広く捉えることができるのである。
今回われわれが開発した単元は、理科的な視点、 特に化学の視点からゴミ問題を捉え
ることをねらいとした。 しかし、 普段、 社会科や家庭科の視点からゴミ問題を扱うこと
に慣れている小・中学校段階の子どもにとって、理科 (化学) の視点からの取り扱いは
未知のもので、 彼らはこの学習にとまどうのではないかと心配した。 しかし、実際には、
授業が進むにつれ、 授業への興味や関心は次第に高まっていた。 そして、ほとんどの生
徒は意欲的に実験に取り組み、 そこから得られた事実にもとづいて、 ゴミ問題の一端を
理解した。 例えば、 彼らは、カップ麺容器が有機溶媒にどんどん溶け込む様子を見て一
様に驚き、 カップ麺容器の体積の9割以上が空気であることを実験結果から導き出し、
そしてポリスチレン容器を埋め立てることは、 結局のところ、 空気を埋めているのと同
じであることに気づいていた。 また、 一見、 同じ素材のように思われるプラスチック製
品が異なる素材からできていること、 実験的に調べてみても、 それを素材ごとに区別す
と、実験的に調べてみても、それを素材ごとに区別す
るのは簡単ではないことを知り、 プラスチックのリサイクルを進める上で重要なのは分
別収集であること、 そのためにプラスチックの識別マークが商品に表示される必要があ
ることに気づいていた。
以上のことから、ゴミ問題を理科 (化学) の視点から捉えようとする本単元の内容は、
毎日の生活の中で接している幾多のゴミを物質の立場から見つめ直し、ものを買う、使
う、捨てるといった日々の行動を考えさせる機会を与えたといえる。 その意味で、 本単
元は、環境問題としてのゴミ問題をいっそう身近な問題として認識させる上で、 十分に
効果があったと判断できる。
○世界的な視点に立ってゴミ問題を理解するということは、それが日本だけの問題ではな
フィリピンを含めた世界各国の問題であることを理解することだけに止まらない。 も
っと重要なことは、ゴミ問題が世界の国々が協力して取り組まなければならない、 世界
共通の問題であることを理解することである。そのためには、ゴミ問題を資源やエネル
ギーの世界的な問題として捉えることが必要である。
本単元の内容は、世界的な視野に立ってゴミ問題を認識させるという点では、 十分な
ものでなかった。 それは以上のような捉え方が徹底されていなかったことに原因がある
ものと考えられる。 今後は、資源やエネルギーの消費・枯渇という世界的な問題を全面
に出し、単元を再構成できるかどうかを検討したい。 その場合、 リサイクル問題を中心
に据えるのはおもしろいかもしれない。 内容としては、 例えば、 プラスチックのリサイ
クルは石油資源の保全につながること、 また製品化に要するエネルギー消費の軽減につ
ながることなどを取り上げてもよい。
Ⅳ. 次年度の研究課題
本年度の研究から、開発した3つの単元は、その内容において、 水質汚染、 森林破壊、
ゴミ問題といった環境問題が身の回りの問題であるという認識を生じさせるのに、 有効で
あることがわかった。 しかし、これらの問題が単に身の回りの問題に止まるものではなく、
世界共通の問題であるという認識を生じさせるには、どうしても教師の意図的な指導が必
要であることもわかった。これらの結果を踏まえて、次年度は以下の課題を中心に研究を
進めることとする。
1. 単元内容の改良と新しい単元の開発
まず、本年度に開発した単元のうち、 「メダカと洗剤」 「空気中のO2はどこからきたの
か」については、 内容構成に問題はないと判断できる。 したがって、 次年度は、視野を国
際的に拡げる上で参考となるような情報をさらに加え、内容をいっそう充実させる。一方、
「ゴミのゆくへ」 については、 内容構成を再検討する。資源やエネルギーの消費・枯渇と
いう世界的問題を全面に出して、この問題が身近なゴミ問題やリサイクル問題と深く結び
ついていることがわかるような内容にする。 また、 内容の一部には実験を取り入れ、子ど
もが実験を行い、そこから得られた事実にもとづいて、環境問題を理解できるようにする。
なお、フィリピンでは、目下、本年度に開発した単元を用いて研究授業が行われている。
この結果から、さらに改善すべき点が見つかったならば、それを加味して、単元の内容を
さらに修正する。
つづいて、日本とフィリピンに共通する環境問題や両国が関係する環境問題を改めて検
討し、新たにいくつかの単元を開発する。 例えば、 大気汚染や酸性雨の問題、農薬による
食品汚染の問題は、今年度の研究過程で話題にはなったが、単元の開発までには至らなか
ったので、これらの単元化の可能性を改めて検討したい。
2. 教師の学習指導についての検討
教師の学習指導に注目し、環境問題に対する視野を国際的に拡げていく上で、 どのよう
な指導が最も効果的なのかについて検討する。 そこでまず、 改良した単元や新たに開発し
た単元を用いて研究授業を行う。つづいて、ビデオ記録を用いた授業の検討会を設け、授
業を詳しく分析・評価する。検討会では、参加者が授業の印象や重要だと思う点を述べた
り、実践者が指導上の工夫や授業の場面、場面の判断や決定をコメントするなどして、子
どもの活動や考えを方向付けていると考えられる、 指導上のポイントについて話し合う。
以上の研究をとおして、 国際的視点に立った環境教育を実現する上で、どのような学習指
導が適当なのか、 その特徴を明らかにする。
そして、フィリピンでの授業実践においても、以上の研究を進める。環境問題に対する
視野を国際的に拡げるのに有効な学習指導のあり方は、 日本とフィリピンで全く異なるの
か、それとも共通するところはあるのか、またそうした特徴をもたらす要因として考えら
れるものは何なのか、などについて比較検討する。
(平成12年3月、2000)
from