1.はじめに。
公的な場での発言にはアンケートや調査にもとづく資料がともなうのが現代社会の 慣例である。 そして, そのような「科学的な」裏付けのない意見はたいていの場合しり ぞけられる。 「科学的」 というのは、あくまでも思考や学問の方法にすぎないのに「 科学的」でないというだけで否定されたりするのは悲しい風潮だと言わざるを得ない。 なぜならば,科学的に因果関係が証明されてから対策を立てても手遅れになっている ことの方が多いほど、 現在は複雑な時代であるから。 特に教育の場では 「おやおかし いな」と思った時には,事態は相当すすんでいることが多いのではなかろうか。
ここでは,以上の観点から今はあまり問題にされないが,やがて直面せざるを得な ないと思われる問題を指適して話題の端緒としたい。
2. テレビの影響について。
テレビが現代社会に与えた影響は, はかりしれない。 しかし, こと個人の成長にと っては,否定的にならざるを得ない。 否定的な観点からは朝日新聞の教育コラムでも リポートされた (S.59. 1~2月) 小中高生については, 内容と時間の問題である。 したがって教育の問題となるので, 解決に致らなくとも問題点は明白である。 生れた ときからテレビを見ている, それもカラーテレビを見ているということこそ問題では なかろうか。 朝日新聞のリポートでは長時間テレビの前で育てられて言語障害になっ た例がとりあげられた。 しかし, 読者はそれを特殊な例としてみるだけであろう。 普 通に,すなわち3 ~4時間程度であれば問題ないと思う親が大部分ではなかろうか。 その悪影響を科学的に立証するのに何年かかるであろうか。 立証されたときでは,既 に手遅れである。 もう2~3年もすれば同世代の半数以上が生れたときからカラーテ レビを見て育ったという人たちの群れが高校生になる。
3.過情報化社会について。
現在生産され流通している情報の量は, 平均した場合、個人の生物学的理解処理能 力をこえており, それにもかかわらず情報量は指数関数的に増えているという意見を 認めない人は少ないと思われる。 生徒が教師の話しを聞こうとしないのも, 処理能力 をこえた過情報に対する生物的拒否かもしれない。 (それだけではないが。)
情報の中味の善悪が問題なのではない。 たとえば書物の問題。 良い本, 役に立つ本, 読むべき本がたくさんある。 しかし, すべてを読むことができない。・・・どれを読 んでも同じだ。 どれも読まなくてもよい。 このように考えるのに思考の飛躍はい らない。
良心的に良い情報につきあえばつきあうほどストレスは蓄積される。 そしてある日 ポックリ・・・。「情報に殺された」 人間が増えているのではなかろうか。 教師もま た情報の生産者,それも拡大生産者なのである。
4. 性の問題
10代の妊娠が増えていると聞く。なぜマコミは警鐘を発し啓蒙しようとしないのか。 校内暴力の次の問題は性の問題であり,これは米国のたどった道とよく似ている。 高 校に託児所をつけるか, 産婦人科医を常駐させるようになるまで, 我々は見ているしかないのであろうか。
5.モラトリアム人間の増加。
大人にならない, あるいはなろうとしない子供が増えているという。 30歳成人説と
いうのがあった。 現在の高校生では35歳くらいと考ればよいと思う。 制度上の20歳
との間に差がありすぎる。 単純計算してみると, 17 (高二) × 20/30 =11.3 という
ことになり,20歳成人制度下の小五になる。 マンガを読んでもおかしくはない。 進
路に対して考えが定まっていなくて不思議ではない。 そのようなことを配慮しながら
なおかつ17歳としての生き方を要求・指導することが大切である。 以上精神面。
6. 教師の自主研修と強制研修
教師というものは次の世代の教師を育成せざるを得ない宿命をもった, 生物の自己
複製にも似た不思議な存在である。 教育の荒廃は教師の質の低下を招く。 自主研修で 済まなくなれば強制される形での研修が増える。
7. 家庭崩壊について。
この問題についても何ら対策はなく,その数が増加している。 そしてこのことが教 育界に与える影響も, 今後さらに深刻になると思われる。
8.公害問題,環境問題。
この問題については, 新局面を迎えていることを指適したい。 すなわち, 一部の地
域の問題ではなく, すべての人にかかわってくるところまで事態はすすんだというこ
とである。 そしてその原因をも一人ひとりが日々作っているということである。
9.社会問題の悪化。
エネルギー問題, 食糧問題等解決の見通しのたたない問題が増えている。 社会不安
から終末論,さらにはニヒリズムへとすすむ国民感情の流れに対しても注意しなけれ
ばならない。
10. ささやかな提案。
事態の根本的解決策にはほど遠いが, 次の3点を提案したい。 (1) コピー・印刷の減 少運動。 (2) 世代を超えた共通体験としての読書・・・・ 夏目漱石 (3) 防災訓練の強化。
11. おわりに。
いずれも5年前に討論されるべきだった問題である。 しかし, 本格的に問題にされる までには5年ほどかかりそうである。 心してかかりたいと思う。
※参考書:立花隆 「文明の逆説」, ハンクロペス「ハーバードの神話」, ムーディ「 テレビ症候群」, 西尾幹二 「日本の教育 ドイツの教育」, 小此木啓吾 「モラトリアム 人間の時代」 1984.2.23.