2019年7月14日日曜日

夕凪亭閑話 2010年2月

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2010年2月1日。月曜日。雨。旧暦12.18.壬午(みずのえ,うま)。一白大安。
 二月になった。関東のほうでは雪のようであるが,こちらは寒いとはいうものの雑草が日ごとに緑色を増し,春が確実にやってきていることが伺える。
 吉村昭「銀狐」。毛皮にされる銀狐は臆病者で,人が近づくと放尿する。恐怖感が他の動物よりも勝っている。人を殺した女にも恐怖感が勝っていたのではないかと,思う作品。以上で短編集「法師蝉」(新潮文庫,1983)を終わる。なお,本文庫には森まゆみさんの解説がついている。
 吉村昭「ふぉん・しいほるとの娘」(岩波書店,吉村昭歴史小説集成6,2009)は668にも及ぶ大作。主人公,脇役の人物もよく描かれており,感動的なシーンもたくさんある。三十年ぶりに涙の再会をするシーボルトとお滝,お稲母子。しかし滝の心は急速に冷えていく。「お稲は,呆気にとられて母の顔を見つめた。母とシーボルトが別れてから三十年。その間に母もシーボルトも,それぞれに結婚し,子の親にもなった。二人にとって愛情はすでに過去のものであり,互いに歳月の流れを意識し,自らの老いを感じとっているのだろうか。」(p.536) 稲は冷静に見ている。このように,歴史がどんどんと進む。物語はシーボルトの来日から始まり,稲の死で終わる。それは鎖国時代から開国,明治維新,そして新しい時代への歴史の急展開の時代でもあった。
 吉村昭「縁起のいい客」(文藝春秋、2003)も終わった。
 
2010年2月2日。火曜日。晴。旧暦12.19.癸未(みずのと,ひつじ)。二黒赤口。
  東部図書館に寄り,期限がきた本を返す。東部図書館の駐車場から見た赤紫色の西空には春の光が感じられた。
 中村真一郎「頼山陽とその時代 中」(中公文庫)。「第三部 一 京摂の友人たち(第一グループ)」。こちらは夜の読書。遅々として進まないことに,文句はない。そういうように設定してあるのだから。それよりも,活字の小さいのが気になりだした。今頃になって。単行本にしておけばよかった,と思う。とはいうものの,単行本のほうは見たことがない。いくらくらいするのかも調べたことがない。下まで買ってあるので,今回はこれで通すことにしよう。さて,この章は実に楽しい。大塩平八郎,北条霞亭をはじめとして,才人たちと山陽との交流が実に楽しく描かれる。この山陽伝を止めて,これらの人々の伝記や著作や詩集に鞍替えしようと思ったことが何度あったことか。
 崎山正毅,伊沢龍雄訳「マンスフィールド短篇集 幸福・園遊会 他十七篇」(岩波文庫)より,「ロザベルの疲れ The Tiredness of Rosabel」。これは作者20才のときの作品とのこと。若々しい。自室に帰り,(その帰路の気分の描写もよい),その日の出来事を回想するのだが,現実に戻らず,回想のまま終わるというのが,なかなか新鮮であった。
 
 
2010年2月4日。木曜日。晴。旧暦12.21.乙酉(きのと,とり)。四緑友引。
 寒い。日射しは明るいのに,2月になってからの寒波が日に日に強まっていくようだ。
 「ローマ帝国衰亡史 Ⅴ」(筑摩書房)。「第三〇章 ゴート族の叛乱-ゴート族,ギリシアを略奪-アラリックおよびラダカイソスによる二回に亘るイタリア大侵略-スティリコ,彼らを撃退-ゲルマン族,ガリアを蹂躙-コンスタンティヌス,西帝国を簒奪-スティリコの汚辱と死」
 もはやローマ帝国ではない。皇帝とはいうものの何もなし得ぬ人である。東西両帝とも。ここですぐに滅びなかったのが不思議なくらいである。それだけローマ帝国の屋台骨がよくできていたということだろうか。衰亡の唄というほどの,滅びの美学はない。
 吉村昭さんの「東京の戦争」(筑摩書房)を借りてきた。小説ではない。「空襲のこと 前」では,B29の低空飛行が回想される。これについては,以前に読んだエッセーにもあったが,ごく僅かの人の記憶にしか残っていなかったが事実であったことが,確かめられている。そして,これまた,他のところに書かれたエッセーにでてきた自宅の焼失でもって,前篇は終わる。
 
 
2010年2月6日。土曜日。晴。旧暦12.23.丁亥(ひのと,い)。六白仏滅。
 まだまだ寒波は逃げない。夕陽が今日も美しい。寒いけれど。昨日,何年ぶりかでひな人形を飾ってみた。
 オルダス・ハックスリー「ジョコンダの微笑The Gioconda Smile」(小野寺健編訳「20世紀イギリス短篇集 上」岩波文庫,2004)は,前半は退屈な話であるが,後半,妻が死んで愛人と結婚したときから,話は急展開して面白くなる。夫が妻を殺したのだという噂に,とうとう警察も動き出した・・・。真相や如何に? 残念ながら推理小説ではない。
 これで,昨年から読んできた「20世紀イギリス短篇集 上」を終わる。
 吉村昭さんの「東京の戦争」の中の「空襲のこと[後]」「電車,列車のこと」「石鹸,煙草」は,戦時中から戦後にかけての庶民史である。戦争というものがいかに無駄なことをしているかということがこれを読んだだけでわかる。ごく僅かの時代,ごく僅かの国を除いて,人類は楽園に住んでいたわけではないのだから,戦争をすればすぐに物や食品の不足を生じる。平和な時代においてですら,常に人類は飢餓と戦わなければならない。戦争などすれば,たちどころに困窮がやってくるのは目に見えている。
 
 
2010年2月7日。日曜日。晴。旧暦12.24.戊子(つちのえ,ね)。七赤大安。
 今朝も池に氷が張っている。でも空は明るく春らしい。寒波も和らいだ。
 阿部昭「人生の一日」(小学館・昭和文学全集30)は奇妙な小説である。前半は親子できちんとした服装をして日曜日に勧誘に来るある宗教の活動を描いて,その子どもの心に思いを馳せる。あの子にとっても人生の一日なんだと。そして,その一日を自分の人生としての一日を執拗に考察していくという小説である。ある程度の深みにまでは至るのだが,やはり完全には共感できない。
 吉村昭さんの「東京の戦争」より,「土中の世界」「ひそかな楽しみ」「蚊、蚤・・・」は庶民史である。空襲後の焼け野原から,電柱の地下の部分を掘り起こす人を見て感心する。浅草界隈の寄席,劇場での楽しみ。そして害虫。DDTは頭に小学校で散布された記憶があるが,さすが東京である。駅,家の中まで進駐軍がやったというのだから凄い。
 
 
2010年2月8日。月曜日。晴。旧暦12.25.己丑(つちのと,うし)。八白赤口。
 寒波が遠ざかり,ほんのわずか小雨が降ったものの,日中は暖かく,春の陽気を満喫した。寒い冬だっただけに,春が楽しい。久し振りに歩いた。
 マンスフィールドの「新しい服」は新しい服を破った子どもの処置。
 吉村昭さんの「歪んだ生活」で初めて千人針というものの実態を知った。近所の人たちの変貌。集団化して権力をもったと錯覚した人々など,戦時下の歪み。
 八代目橘家円蔵の「うなぎの幇間」「猫と金魚」「寝床」を聴く。かつて月の家円鏡としてテレビで人気のあった人だ。
 
2010年2月9日。火曜日。晴。旧暦12.26.庚寅(かのえ,とら)。九紫先勝。
 暖かい。雨が降るかと思っていたが少し降っただけ。春のような陽気。
 吉村昭さんの「戦争と男と女」「人それぞれの戦い」「乗り物さまざま」「食物との戦い」
 戦中戦後の悲惨な生活が記録される。当然モラルの低下も。物が盗まれる。ガラス窓がそっくり盗まれたりする。現在の,公園の金属具や橋の銘板などが盗難にあうのに似たところがある。ただ,当時は物がなかった。今は物はあっても金がなかったら盗むのだろうか。金がなければ,物はあっても生きていけない社会であるから。荷台の長いリヤカーがあったという話もある。それから,戦後の食糧難で餓死した人を見たという記録もある。
 
2010年2月10日。水曜日。雨。旧暦12.27.辛卯(かのと,う)。一白友引。
 小雨なれど暖かい。春の陽気。
 マンスフィールド短篇集から「小さい女の子」。父親と相性が合わない。何をやっても裏目にでて,叩かれたりする。最後は,しっくりいく。「次郎物語」だったのだろうか,よく似ていたように思う。「次郎物語」は最後まで読んでないぞ。最後はどうなるのだろうか?
 
 
2010年2月11日。木曜日。雨。旧暦12.28.壬辰(みずのえ,たつ)。二黒先負。建国記念日。
 神辺のフジグランへ「アバター」を観に行く。ナウシカになったり、ラピュタになったり。でもやっぱり、西部劇でした。おもしろいし、映像も素晴らしい。ニュージーランドですか。きれいですね。
 呉の無人島を,隣りの島に塩を集積している会社が,買った。音戸大橋を渡り、北側を能美島・江田島方面へ向かうと右手の小島に塩が野積みにされているのは、壮観だ。メキシコからの輸入天日塩だと聞いたことがある。雨に濡れると表面が堅くなるので屋根代わりになるのだろうか。
 片平孝さんの写真集「地球 塩の旅」(日本経済新聞社、2004)には、ボリビアのウユニ湖をはじめとして印象深い光景が多数収められているが、p.74にはカリフォルニア半島のゲレロネグロ塩田(メキシコ)が世界最大の天日塩田だと紹介されている。世界の全塩生産量の約30%が天日塩だそうだ。
 
2010年2月12日。金曜日。曇り。旧暦12.29.癸巳(みずのと,み)。三碧仏滅。
  「1993年7月、フマキラー株式会社開発本部・杉山農学博士が、広島県廿日市市住吉の住宅地にて発見。」http://www.fumakilla.co.jp/argentine/index.htmlとフマキラーのHPに出ていました。
 アルゼンチンアリに関する中国新聞の社説(2008.6.30.) http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh200806300087.html
  福山衝上断層というのが、ヘルス共和国の入り口にある。奈良津の消防署に行く手前の山側(溝の北、フェンスで囲ってある)にもある。
 
2010年2月14日。日曜日。晴れ。旧暦1.1.乙未(きのと,ひつじ)。五黄先勝。旧正月。
   4寺40分に起きる。暖かい。春のような陽気。
 吉村昭「東京の戦争」(筑摩書房)終わる。
 ドストエフスキー著,小沼文彦訳「白夜」(角川文庫)終わる。
 
 
2010年2月15日。月曜日。雨後曇り。旧暦1.2.丙申(ひのえ,さる)。六白友引。
 朝雨が降っていた。昨夜12時に寝て7時に起きる。まずまずの睡眠。帰りに図書館で「廿日市町誌」(二冊)を借りてくる。よくできていておもしろい。アルゼンチンアリ関連。廿日市と木材の関係を調べるため。
 
2010年2月16日。火曜日。晴れ。旧暦1.3.丁酉(ひのと,とり)七赤先負。5434。
 気温が低いとはいえ,2月にしては暖かい。暖冬だ。そして,日に日に光が明るく春めいてくる。猫の出没が気になるといえばいえるが。
 「ローマ帝国衰亡史 Ⅴ」「第三一章 アラリックのイタリア侵入-ローマ元老院及び市民の実態-ローマは三たびゴート族に包囲され,遂にその略奪を受ける-アラリックの死-ゴート族,イタリアを撤退-コンスタンティヌスの最期-蛮族軍,ガリア及びヒスパニアを占領-ブリタニアの独立」。
 衰亡史なのだから,仕方がないとはいえ,かつての大帝国も防衛線が機能しなくなると次々に賊に侵されてしまうのは当然のことであるが,まことに寂しい。それが,時には歴史の必然のようにも思えるが,それでも何とかならなかったのか,という思いは諸所のシーンで起こる。異なる風土であった地中海周辺をアスファルト舗装するがごとくに一度は地ならしをした。そしてそれらが破壊されていくとはいえ,ローマの面影を幾分かは残しつつ,あらたなヨーロッパが生まれるのだから,ローマ帝国の歴史的意義は十分に報われているともいえる。さあ,本巻の残り三章。春の訪れと競いたいものだ。
 
2010年2月17日。水曜日。晴れ。旧暦1.4.戊戌(つちのえ,いぬ)。八白仏滅。
 春だと思っているのに外気は意外と冷たい。夜になって益々寒くなった。寒波到来だろうか?
 吉村昭さんの「光る壁画」(新潮文庫)は,最初の胃カメラを発明した,医師とオリンパス工業の技術者たちとの物語である。
 
 
2010年2月18日。木曜日。晴れ。旧暦1.5.己亥(つちのと,い)。九紫大安。
  今日はいろいろ多忙。
 
2010年2月20日。土曜日。晴れ。旧暦1.7.辛丑(かのと,うし)。二黒先勝。
  6時半で6.1℃。まだまだ寒い。でも外が明るいので気持ちよい。
 
 
2010年2月21日。日曜日。晴れ。旧暦1.8.壬寅(みずのえ,とら)。三碧友引。
 6時半に起きる。7.5℃。もう外は十分明るい。新聞をリサイクルに出し、出勤。今日は図書館から「広報沼隈」の合本縮刷版を借りてきた。移民関係はコピーしてあるが、他のことも参考になるだろう。東部図書館にあるので、いつでも借りられる。少しずつ読んでみよう。
 
2010年2月22日。月曜日。晴れ。旧暦1.9.癸卯(みずのと,う)。四緑先負。
 今日はぐっすりと寝た。寝覚めがよかった。寝汗をかいていたのは気温が高かったためだろう。
 
2010年2月24日。水曜日。晴れ。旧暦1.11.乙巳(きのと,み)。六白大安。
 今日もよく寝た。六時過ぎに帰る。大変暖かい。
  今でも時々見る、金網のネズミ捕獲器。イリコをぶらさげておくと、中に入って、喰った瞬間に戸が閉まり、かかった。一方向へのみ行けるロート状の針金のところから、もう1匹入ったのか、2匹捕獲されているのを見たことがある。つがいだったのだろうか。昔の猫は、ねずみをよく捕っていた。
 
2010年2月25日。木曜日。晴れ。旧暦1.12.丙午(ひのえ,うま)。七赤赤口。。
 今日も忙しい日だった。明日の準備をさらに進める。夕食はサンピアでとり,後,リーデンローズで準備打ち合わせ。
 
2010年2月26日。金曜日。雨。旧暦1.13.丁未(ひのと,ひつじ)。八白先勝。
 リーデンローズで記念式典。養老孟司氏の講演。夜,ニューキャッスルホテルで祝賀会。
 
2010年2月27日。土曜日。曇り夜雨。旧暦1.14.戊申(つちのえ,さる)九紫友引。
 朝,因島へ。午後,散歩後昼寝。夕食後散歩。
 吉村昭「冷たい夏,熱い夏」(新潮文庫)終わる。
 
2010年2月28日。日曜日。晴れ。旧暦1.15.己酉(つちのえ,さる)一白先負。
 春。午前中,午後,散歩。 夜,西町で送別会。津波警報等発令中。チリ中部でM8.8の地震のため。
 「ローマ帝国衰亡史 Ⅴ」(筑摩書房)。「第三二章 東帝国のアルカディウス帝-エウトロピウスの施政ならびにその末路-ガイナスの叛乱-聖ヨハネ・クリュソストモスの迫害-東帝国皇帝テオドシウス二世-その姉プルケリア-その妃エウドキア-ペルシア戦役とアルメニア分割」ということです。長い歴史です。
 
2月の読書の記録。
今年6冊目。
 吉村昭「法師蝉」(新潮文庫、1993)。図書館本。
今年7冊目。
 吉村昭「ふぉん・しいふぉるとの娘」(岩波書店・吉村昭歴史小説集成6、2009)。
今年8冊目。
 吉村昭「縁起のいい客」(文藝春秋、2003)。図書館本。 
今年9冊目。
 小野寺健編訳「20世紀イギリス短篇集 上」(岩波文庫,2004)
今年10冊目。
 吉村昭「東京の戦争」(筑摩書房)。図書館本
今年11冊目。
 ドストエフスキー著,小沼文彦訳「白夜」(角川文庫)。所蔵本。
ということで,まことに少ない。